日経ものづくり 開発の鉄人

第17回 “一人蒲田”なら任せやすい

「開発の鉄人」こと 多喜 義彦

試作の受託生産というのは難しい業種だ。
注文は常に特急品,しかもいつ発生するか分からない。
注文を待つ間,工場は稼働できず,あまりもうからない業界だ。
そこで気を吐いている会社がある。
強みは全工程ができること,そして多能工化。
これなら,たとえ設備は遊んでも人は遊ばない。


 自動車関連の試作メーカーで“奇跡”といわれている会社がある。群馬県伊勢崎市にある浅野。ここの売上高は試作部門だけで年に約35億円ある。量産用の金型を入れると約40億円の会社だ。試作メーカーってのは売り上げ規模がせいぜい数億円,大きくても10億円っていう業界だから,これはでかいよ。
 浅野は年平均1万種類以上の新しい部品を供給している。基本的にはホンダ系に強いんだけど,伊勢崎という地の利もあって富士重工業系もあり,ほかの各社もだいたい入っている。トヨタ自動車系の部品メーカーからも注文が来ているから,トヨタ本体を除けばもう一歩で全国制覇ってとこかな。

自分の都合で動けない
 試作という仕事の性格上,秘密保持の問題もあって,普通はこんなに幅広い顧客層を取り込むことはあり得ない。それだけ信用を得ているということだ。他社とも付き合いがあるなんて,ちょっと気になるからね。それも規模に限界があることの理由の一つなんだけどね。
 試作という仕事はね,注文が来るときはドーンと来るんだけど,ある時期を過ぎるとぱったり止まってしまう。試作なんだから,客先の事情に左右されるのは,しょうがないよね。
 注文が来たからといって調子に乗って設備投資すると,出来上がったころには遊休設備になってしまう。怖くて大きくできないんだ。

日経ものづくり 開発の鉄人
図●数値データ,加工データは社内で作る