日経ものづくり 特報

日欧の日欧による日欧のための工作機械

「EMO(欧州工作機械見本市)2005」が,ドイツのハノーバーで2005年9月14日から21日まで開催された。主役は,開催地である欧州メーカーと旺盛な設備投資需要に湧く日本メーカー。共通点は,中国を初めとするアジア工場の台頭で,欧州内または自国内の工作機械の顧客が「高い人件費」という課題に苦しんでいること。これをもう一つの共通点である高い技術力で解決する。ポイントは,部品加工のサイクルタイムを徹底して短縮し,中国工場との人件費の差を吸収することだ。そうした工作機械を具現化すれば,価格が多少高くても日欧のユーザーにとっては価値がある。人件費の低さを最大限に生かし“人海戦術”で臨む中国工場は,高価な工作機械を買おうとはしない。だから,日欧のユーザーは工作機械で中国工場と勝負できる。中国工場のコスト競争力に真剣に立ち向かう,顧客の立場から見た「使える工作機械」の提案が相次いだ。

 「低価格のワークの切削はみんな中国へ行く。作業員の人件費が低いからだ。だから,欧州では付加価値の高いワークを選び,その上で加工のサイクルタイムを短縮しなければ,工場は仕事を失ってしまう。日本と同じだ」。
 スイスimoberdorf社販売マネージャーのVincenzo Bonavoglia氏は,現在の欧州の部品加工メーカーや金型加工メーカーが抱える課題をこう語る。2005年9月の中旬からドイツのハノーバーで開かれた「EMO(欧州工作機械見本市)2005」は,この課題に正面から向き合う工作機械の提案会場となった。欧州と日本の工作機械メーカーが,顧客である欧州または日本の部品メーカーや金型加工メーカーが今後仕事を続けるために必要になると考える工作機械を競って公開したのだ。そうした状況の中,最も出展数が多かったのが,複合加工機である。

大流行の複合加工機
 複合加工機は,旋盤とマシニングセンタ(MC)の機能を1台に集約させた工作機械。旋削やドリル,リーマ加工,ミリング加工など多様な切削が1台でできることから,価格の高い複雑な形状の部品や金型の加工に向く。その上,一度ワークをチャッキングすると,切削が完了するまで段取り作業を必要としないことから,加工精度が高まることに加えて,サイクルタイムを削減できる。従来,ワークの切削にMCと旋盤の2台を使っていた顧客は,新しい複合加工機を使えば1台で済むことから,省スペースや省人化を進めてコストを削減できる。
 複合加工機は今,欧州でも日本でも工作機械メーカーで大流行している工作機械だ。狙いは,中国工場が対応できないワークを切削し,サイクルタイムの短縮で人件費の高さを吸収することである。
 複合加工機は旋盤とMCのどちらを設計のベースにするかで2種類に分かれる。例えば,オーストリアWFL Millturn Technologies社の「M35-G」は,旋盤を基にMCの機能を加えた複合加工機の典型例(図)。旋盤同様,本体の水平方向の左右の端に棒状のワークをチャッキングして回転する主軸(ワーク主軸)を設け,その下方にバイトなどの旋削用の工具を付けたタレットを取り付けた。垂直方向には,回転工具を付けた立型MCの主軸(工具主軸)がくる。工具主軸を支えるコラムは傾いている。M35-Gは大型のクランクシャフトをワークの代表例として展示していた。

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図●オーストリアWFL Millturn Technologies社の旋盤ベースの複合加工機「M35-G」
クランクシャフトのような棒状のワークを旋削し,さらにミリング加工を加えることで複雑な形状に切削する。