日経ものづくり 特集

今や,どの工場でもできるような大量生産品はもうからない。他社の嫌がる多品種少量生産をこなせることが生き残るための必要条件となった。多品種少量生産を実現するための手法としてセル生産が広く普及したが,その限界も見えつつある。ジャスト・イン・タイムでの納品を要求する顧客も増えており,組立工程・加工工程を問わず,小ロット化への取り組みが欠かせない。こうした状況下でも飛躍できるのは,最適な生産方式を自ら生み出せる“独創工場”だけである。 (木村知史,高野 敦)

【PART1】なぜ“独創”か
  生き残りの条件は一味も二味も違うライン
【PART2】事例研究
  (Case1):デンソー西尾製作所
  ・・・ ・・需要に応じて自動化ラインが変化
  (Case2):NTN磐田製作所
  ・・・ ・・モジュール化を徹底した安価なライン
  (Case3):リコーユニテクノ
  ・・・ ・・つなげた台車の上で組み立て
  (Case4):日本ビクター横須賀工場
  ・・・ ・・楕円のレイアウトで円滑な運搬
  (Case5):新キャタピラー三菱相模原事業所
  ・・・ ・・ サブラインで工数差吸収
  (Case6):ショーワ埼玉工場
  ・・・ ・・ 回転する作業台で省スペース化
  (Case7):和歌山アイコム
  ・・・・・ 実力以上のタクトタイムで課題抽出
  (Case8):ローランド都田工場
  ・・・ ・・ コンベヤラインの究極を目指す
  (Case9):コガネイ駒ヶ根事業所
  ・・・・・ 段取り替えの手間をITで軽減
  (Case10):松下電工新潟工場
  ・・・・・ 教えるために3段階の生産方式


【PART1】なぜ“独創”か
生き残りの条件は
一味も二味も違うライン

 価格下落の嵐が吹き荒れる中,5期連続で増収・増益と快走するキヤノンが2005年8月,新たなコストダウン戦略を打ち出した(図)。NECマシナリーの買収である。
 NECマシナリーの主力製品はダイボンダや半導体製造装置。キヤノンはこうした製品自体に固執しているわけではない。真の狙いは産業用機器の製造ノウハウ。自社の技術者をNECマシナリーに送り,そこで得たノウハウを自社の製造ラインに生かす。このようなシナリオをキヤノンは想定しているはずだ。
 そのノウハウを生かす先は無人の製造ライン,いわゆる自動化ラインである。同社にとって自動化ラインは「セル生産の次を担う生産方式」(同社代表取締役社長の御手洗冨士夫氏)。既に稼働しているトナーカートリッジの自動化ラインの生産性向上を目指しつつ,自動化ラインの生産品目の拡大も視野に入れる。

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図●キヤノンとNECグループの3社による会見の様子
左からNECマシナリー代表取締役社長の高崎勲氏,キヤノン代表取締役社長の御手洗冨士夫氏,NEC代表取締役執行役員社長の金杉明信氏,アネルバ(本社東京)代表取締役社長の今村有孝氏。キヤノンは,NECマシナリー買収と同時にアネルバ買収も発表している。アネルバ買収の目的は,薄型テレビ「SED」の基幹部品内製。


【PART2】事例研究
(Case1)需要に応じて自動化ラインが変化

デンソー
西尾製作所

 低賃金の国々に対して,日本の工場が勝つためには,自動化ラインによる高い生産性を実現するのが一つの手段。しかし,製品のライフサイクルが短い中,自動化ラインに柔軟性がなければ,短期間に次々とラインの再構築が必要になる。
 このような自動化ラインの問題を克服すべく開発したのが,デンソー西尾製作所がカーエアコンの生産に利用している「多世代対応自動ライン」だ。その特徴は,製品の増産,減産の状況を見て,ライン同士が生産設備の貸し借りを行えること,生産設備が技術者の知恵などで進化することだ。

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図●多世代の生産に対応する自動化ライン
一見すると汎用ロボットを利用した自動化ラインと変わらない。ただし,ロボット1台を中心とした個々のセルは,モジュールを組み変えることで,ほかの作業に対応できる。このため,増減産に対応してセルを移動できると共に,モジュールを最新の設備にすることで,生産性向上を可能とする。


【PART2】事例研究
(Case2)モジュール化を徹底した安価なライン

NTN磐田製作所

 「産業の米」とも言われるベアリング。このベアリングを,中国や東欧など人海戦術で低コストで生産する諸国と対等に戦うためには,徹底的に安価に作成する自動化ラインが必要だ。
 2000年から開発を着手,現在ボールベアリング製造で6ラインが稼働中のNTN磐田製作所の次世代ラインは,この外国勢と対等以上に戦うために,各所に個性を持たせた。
 目標は,今後の四半世紀を担う設備を構築し,しかも従来ラインと比較して設備費を半分,敷地を半分に抑えることだった。そこまでしないと中国には勝てない。極力安いコストで,自動化ラインを確立しなくてはならないのだ。このため,若手中心のチームを結成。若手の知恵を集めた。

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図●ボールベアリングの新しい研削ライン
研削盤をモジュール化することで設備費を抑えた。手前の2台の研削盤は,違う加工を行うものだが,外観はまったく一緒だ。


【PART2】事例研究
(Case3)つなげた台車の上で組み立て

リコーユニテクノ
(リコー生産子会社)

 リコーの生産子会社であるリコーユニテクノは,業務用のファクシミリやA2判より大きい用紙にも対応する幅広タイプの複合機などを造っている。機種数は多いが,どれもそれほど数が出ない製品ばかりで,多くても月産3000台。少ないものは月に5~10台程度しか造らない。
 必然的に多品種少量生産に取り組まざるを得ない。とはいえ,月3000台の製品と5台の製品を同じやり方で造っても,生産性を高められるはずがない。効率を追求した結果,独自の生産方式を次々と確立していった。今では,生産台数や部品点数,質量などから最適な生産方式のメドが立つほどノウハウがたまってきた。

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図●台車引き生産
仕掛かり品を載せた台車と必要な部品を配膳した台車を交互に連結する。


【PART2】事例研究
(Case4)楕円のレイアウトで運搬が円滑に

日本ビクター
横須賀工場

 日本ビクターの横須賀工場は,同社AV&マルチメディアカンパニー生産センターとしてデジタル・ビデオ・カメラ(DVC)や薄型テレビを造っている。そして,製品の種類の数だけ生産方式もある(図)。生産性を追求していった結果だ。

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図●デジタル・ビデオ・カメラ製造ラインの調整工程
楕円状の作業台をパソコンなどの設備が取り囲むというレイアウト。同社では「チャクチャク」と呼んでいる。従来は工程が変わるごとに配線もやり直していたが,専用の治具(白色)を使うことで,各工程での配線を不要とした。


【PART2】事例研究
(Case5)工数差を吸収するサブラインを設置

新キャタピラー三菱
相模事業所

 新キャタピラー三菱相模事業所の第1工場を縦断する180mの組立ライン。コンベアは毎時57mの速さで動いており,そこに搭載された小型建機は,27個のステーションで次々と部品を組み立てられていく。
 よく見ると,ラインに搭載されている建機は1種類ではない。油圧ショベルが流れるのが多い中,ブルドーザやホイールローダといったトラクタも,混在して流れている。
 2005年2月に稼働し始めた同ラインは,異機種を効率良く生産するのが自慢。1日当たり約70台の建機を生産している。今後は80台体制を構築できるように改良を重ねていくという。

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図●サブ組立ラインで工数差を吸収する
油圧ショベルに対してトラクタ(ブルドーザ,ホイールローダ)は工数が少ない。そこで,メインラインの前にサブラインを設けて,工数差を吸収する。写真はトラクタのサブ組立ライン出口付近から見た風景。


【PART2】事例研究
(Case6)回転する作業台で省スペース化

ショーワ埼玉工場

 ショーワの4輪自動車向けショックアブソーバの国内生産拠点である埼玉工場では,省スペース化が常に課題だった。ショックアブソーバの製造ラインは,大掛かりな設備を必要とするものが多く,スペースもかさむ。
 将来増産するかもしれないことを考えれば,敷地を使い切っている状態よりは,空きスペースがあった方がよい。増産する予定はないとしても,現在は他社に外注している仕事を自社に取り込むという空きスペースの活用法もある。省スペース化は収益の拡大を図る上で欠かせない取り組みなのだ。

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図●「インデックス」を使った組立工程
仕掛かりは幾つかの工程を経て,元の場所に戻ってくる。


【PART2】事例研究
(Case7)実力以上のタクトタイムで課題抽出

和歌山アイコム
(アイコム生産子会社)

 和歌山アイコムは,無線機メーカーであるアイコムの生産子会社にして唯一の生産拠点。日本市場向けも海外市場向けも,米国陸軍向けもアマチュア無線愛好家向けも,アイコムの製品はすべて和歌山アイコムで造る。
 その和歌山アイコムの組立・検査工程はすべてコンベヤラインだ(図)。セル生産がこれだけ普及したにも関わらず,敢えてコンベヤを使い続けるのには相応の理由がある。それは,同社が非常にタクトタイムを重視しているからであり,そのためには一定のペースで動くコンベヤの方が便利だからだ。重視すると言っても,タクトタイムを厳守するわけではない。むしろ“いい意味で”守らない。

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図●無線機の組立・検査ライン
作業者から見て作業台の奧にベルトコンベヤがある。8時間分の生産量を7時間半で終わらせようとすることで,改善すべき個所をあぶり出す。組み立てから検査までを一貫して行う。


【PART2】事例研究
(Case8)コンベヤラインの究極を目指す

ローランド都田工場

 「もともとあったコンベヤを撤去するのではなく,ベストの使い方を見極めたい」(ローランドキャビネットプロダクション部長の河合茂彦氏)。このような目的で2005年8月から稼働し始めたローランド都田工場の「ローランド・デジタル・ハイブリッド・ライン(R-DHL)」は,一見すると普通のコンベヤライン。作業者は右から左に流れる電子ピアノを,それぞれが決められた工数だけ組み立てて,次のステーションへと流す。
 特徴的なのは作業者一人ひとりの前に液晶モニタを設置していること(図)。しかもこのモニタが,作業工程の一つひとつを詳細に写し出す。素人でも組み立てに参加できるほど,細かく作業内容を指示するのだ。

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図●ローランド・デジタル・ハイブリッド・ライン(R-DHL)
一見すると普通のコンベヤライン。個々の作業者の前には,手順を詳細に紹介するモニタが設置されている。また,どの作業に何秒掛かったかは,すべて記録している。


【PART2】事例研究
(Case9)段取り替えの手間をITで軽減

コガネイ
駒ヶ根事業所

 空気圧シリンダを主力製品とするコガネイ(本社東京)にとって,多品種少量生産への取り組みは今に始まったことではない。まず完成品の形態がさまざまだし,基幹部品のシリンダにしても,径・長さのカタログ標準規格だけで何種類もある。カタログに載っていない仕様を求める顧客も多い。ロットもまちまちだ。
 当然,シリンダや空気圧を制御するためのバルブの加工工程は,さまざまな機種を小ロットでこなさなければならない。従来は,ある程度の数をまとめて造っていた。しかし,そのやり方では納期が犠牲になる。性能だけでは差を付けにくい製品群だけに,納期を犠牲にしてまで工場の都合を優先させるわけにもいかない。

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図●治具自動交換システム
工作機械のラインの背後に,自動倉庫の治具置き場を設けた。作業者がバーコードを読み取ると,加工に用いる機械が指定され,時間になると自動的に治具を交換する。


【PART2】事例研究
(Case10)教えるために3段階の生産方式

松下電工新潟工場

 松下電工新潟工場の自慢は,第三工場の1階で稼働する24時間稼働の全自動化ラインだ(図)。同工場は施設照明器具,防災照明器具などを生産するが,中でも全自動化ラインで生産するのは,2本の蛍光灯を取り付ける「富士型2灯用」と呼ばれる施設照明器具。月に約10万台を生産する。
 組み立てだけを全自動で行っているわけではない。インバータなど一部の部品は関連会社から購入しているものの,本体や反射板などの板金部品は打ち抜きから塗装,成形まで自動加工している。ソケットもバネ製造や樹脂成形から組み立てまでを自動加工。それらを,AGVなどを利用して組み立て工程に供給している。

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図●24時間稼働の全自動化組み立てライン
生産計画に基づき,35品種を自動で切り替えながら生産する。