日経ものづくり キラリ輝く中小企業

太武製作所

精密機械部品の太武製作所
厳格な検査と微細加工に強み

 ハイテクの粋を集めた愛知万博。長久手と瀬戸の両会場間を行き交う話題の燃料電池ハイブリッドバス「FCHV-BUS」に,太武製作所の手掛けた部品が使われている。FCHV-BUSは,高圧水素ガスを燃料とする燃料電池と2次電池(ニッケル水素電池)を動力源としてモータで動くバスである。屋根の下にある高圧水素タンクには35MPa(約380気圧)の水素が貯蔵され,アクセルに応じてタンク内部で減圧し,燃料電池に一定の圧力の水素を供給する仕組みだ。
 同社がトヨタ自動車の要請に応えて製造したのはタンクの燃料制御用バルブ,それも主にシーリング用として使われる17個の機械部品である。水素分子は小さくて外部に漏れやすく,燃える恐れもあるため,シーリングが特に重要になる。万博会期中だけのものとはいえ,その重要な部分の部品製造を任されたのには,太武製作所の技術力に寄せる期待があったようだ。
 同社はかつて,トヨタ車のABS(アンチロック・ブレーキ・システム)装置用バルブ部品の量産を手掛けていたことがある。その時,担当していたのもシーリングに関する部品だった。だが,かつての経験だけが発注の決め手になったわけではない。トヨタが白羽の矢を立てたのは,太武製作所が厳格な品質検査を伴う微細加工技術を保有しているからにほかならない。

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●太武製作所による加工例
比較的大きな部品だけを集めたもの。


タンケンシールセーコウ

カーボンのタンケンシール
メカニカルシールを一貫製造

 「ことしで創業50年になりますが,引火事故や人身事故を起こしたことは一度もありません」。こう胸を張るのは,メカニカルシールを製造する,東京は大田区のタンケンシールセーコウ社長の永井彌太郎氏だ。
 同社の売り上げの7~8割を占めるメカニカルシールとは,ポンプのシャフトとケーシングのすき間からポンプ内部の流体が漏れ出すのを防ぐ軸封装置のこと。自動車をはじめ建設機械,船舶などさまざまな分野で使われているが,同社は主に石油化学プラントや製油所,食品プラントといった産業分野向けに製造・販売している。
 特に,同社がターゲットとする分野の難しさは,ひとたび漏れが発生したときに,他分野以上に多大な損害が発生する恐れがあるということだ。それだけシールメーカーは大きなリスクを抱える。とりわけ中小企業にとって,そのリスクは時に会社の存亡にさえかかわる。
 こうした厳しい分野で,同社は競合相手の大手シールメーカー2社と互角に渡り合ってきた。事実,産業分野向けメカニカルシールのシェアは「我が社を含めた3社でほぼ均等に分け合う」(永井氏)。そこにあるのは,冒頭の言葉通り,半世紀にわたって積み上げてきた信頼だ。
 同社がユーザーから厚い信頼を勝ち得るようになった訳を知るためには,時計の針をいったん50年前の創業当時に戻さなければならない。

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●最初のメカニカルシール
黒く見えるのがカーボンリング(上)。それを組み込んだ様子(下)。