日経ものづくり 組み込みソフト玉手箱

第9回 ハードのしわ寄せで品質が低下

情報処理推進機構 ソフトウェア・エンジニアリング・センター
田丸喜一郎

●組み込みソフトは,ハードとの並行開発が普通
●ハードの不具合をソフトがカバーすることが多い
●ソフトとハード両者を理解する技術者が望まれる

 長年,組み込み業界の活動を一緒に進めている仲間が体調を崩して休業した。コンビでこなしていたことをピンでカバーする羽目になり,多忙な時期を過ごすこととなった。いわば,漫才コンビの相方がダウンしたのと似た状況である。
 組み込みシステムはハードとソフトがコンビのシステム。ハードの開発と並行してソフトの開発が行われることが多い。ハードの開発が計画通りに進まないとソフトの開発にも多大な影響が出る。結果としてソフトにしわ寄せが来る場合も多い。
 組み込みソフトの開発プロジェクトでは,約1/4で「機能・性能」を十分実現できず,1/3では「品質」が予定通りにならず,「開発期間」と「開発費用」は1/2以上で超過の状況となっている。その大きな原因の一つがハードに起因したトラブルである。

ハードによるトラブルとの闘い
 給与計算や販売管理などの業務系ソフトやWebソフトなどのエンタープライズ系ソフトは,パソコンやサーバといった完成済みのハードで開発する。しかし組み込みソフトは違う。
 ハードの開発が計画通りに進むのであれば,組み込みソフトの開発もエンタープライズ系ソフトと条件は同じ。しかし,残念ながらハードの開発も必ずしも計画通りに進まないのが現状だ。ハードの完成度の観点で,エンタープライズ系と同様に開発が進められる組み込みソフトは1割もない。
 組み込みソフト開発の途中では,実にさまざまなトラブルに遭遇する(図)。ハード開発における仕様策定から設計,製造に至る幅広い工程の結果がソフト開発に影響を与えている。

日経ものづくり 組み込みソフト玉手箱
図●ハードに起因するトラブルと組み込みソフト
組み込みソフトの開発途中では,ハードに起因するさまざまなトラブルに直面する。開発終盤で見つかったハード不具合の回避のためソフトを変更したり,開発途中でのハードの仕様変更によってソフトを修正したりすることなどは半数以上のプロジェクトが直面する。(経済産業省「2005年版組込みソフトウェア産業実態調査報告書」)