日経ものづくり 中国的秘密・日本的秘策

第9回
これぞ中国流ゼロエミッション?
ゴミの利用が育むコスト競争力

中国メーカーの最大の脅威はコスト競争力だ。それをもたらすのは人件費の低さだけではない。中国メーカーの多くは,部品や材料を日本メーカーよりも低コストで仕入れるすべを知っている。品質と利益のバランスの取り方に対して,日本メーカーでは思いもよらない考え方をすることがその背景にはある。(本誌)

遠藤 健治 海外進出コンサルタント


「中国メーカーから御社のものと似た製品が販売されていました。しかも性能もなかなかでしたよ」
 ある日,顧客からこう聞いた私たちの会社は,すぐにその製品を取り寄せ,内部構造を分析することにしました。早速,中を開けてみてびっくり。内部の造り方は,私たちが想像すらできないほどひどいものでした。
 基本的には,明らかに私たちの製品をコピーしたものです。驚いたのは,私たちが見たことのない,ゴミのような材料が至る所に使われていることでした。とても部品と呼べる代物ではありません。よく見ると,その通り,私たちなら捨ててしまう端材でした。
 この中国メーカーの加工技術はいまひとつのようで,部品の加工精度はあまり高くありません。そのため,部品を配置すると部品同士にすき間が生じてしまいます。端材は,そうしたすき間への詰め物として使ったり,複数の部品を結合するスペーサとして使用したりしていたのです。
 端材がゴミのように見えたのは,非常に雑に加工されているせいでした。長方形のものもあれば,ひし形に近いものも,台形のようなものもあります。しかも,カットした面がいかにも適当で,グニャグニャに曲がっているものもありました。私たちならきれいに加工した専用のスペーサを造ったり,購入したりして使う部分を,事もあろうにこの中国メーカーはゴミで間に合わせているのです。
 実は,ゴミを再利用するのは中国ではごく普通のこと。「中国の製造業にゴミという概念は存在しない」といっても過言ではありません。日本メーカーなら,誰もが廃棄しようと考えるものでも,中国メーカーの社員の目には貴重な“材料”として映るものが多いのです。それを象徴するこうしたエピソードがあります。以前,私が勤めていた中国工場で起きた事件です。