日経オートモーティブ 技術レポート

トヨタ「ヴィッツ」に採用した高効率クラッシュボックス
同じエネルギ吸収量で質量が半分
新しい溝の構造で強度アップ

 住友金属工業と豊田鉄工は、衝突時のエネルギ吸収量を高めたクラッシュボックスを開発した。名称は「高効率クラッシュボックス」。質量当たりの平均荷重を2倍以上に高めたのが特徴。同じエネルギ吸収量なら従来の半分程度に軽量化できる。トヨタ自動車が2005年2月に発売した「ヴィッツ」で採用した(図)。

 クラッシュボックスは、フロント/リアのバンパーと車体骨格の間に配置する。軽衝突時に衝撃を吸収し、車両本体の破損を極力抑える働きを持つ。
 従来品は、衝突方向に垂直に複数の「クラッシュビード」と呼ばれる溝を入れていた。衝突時に溝がつぶれることでエネルギを吸収する。しかし、溝はつぶれやすく、溝以外の平面部分はつぶれにくい。このため高い荷重に耐えるクラッシュボックスを作りにくいという制約があった。
 安全性を高める手段として、クラッシュボックスの肉厚を増やす、本体を大型化する、などの手法もあるが、車体の小型化と軽量化に逆行してしまう。一部欧州自動車メーカーは、質量増を抑えるために、アルミニウム合金を使っているが、高コストなため国内での利用は高級車種に限られていた。
 このような厳しい環境の中、両社は従来同様に鋼材を用いてコストを抑えつつも、衝突性能を2倍以上に高めた製品を開発した。「最初から新しい方式を考えたわけではない。これまでの方式でやれるところまでやったが限界にぶつかった」(住友金属工業薄板商品技術部長大石公志氏)のが開発のきっかけという。
 新型のクラッシュボックスは、衝撃を吸収する新しい構造を採用した。衝突方向に対して溝を平行に配置したのが特徴だ。溝の配置を横から縦に変更しただけに見えるが、衝突時の溝の役割は大きく異なる。従来品は、つぶれやすくするために溝があるが、開発品は逆につぶれにくくするために溝がある。

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図●トヨタ自動車「ヴィッツ」
新開発の「高効率クラッシュボックス」をリア部に2個採用した。フロントにも採用したかったが時間が足りなかったという。