日経オートモーティブ 特集

【Part1:日米欧が競う】

米国市場がターゲット
2008年の主導権狙う

【Part2:開発最前線】

燃費と走りで新たな魅力
独自方式の開発も進む

【Part3:立ちはだかる課題】

電池の進化が低コスト化の鍵
2010年にはLiイオンが主流か?


【PART1】日米欧が競う
米国市場がターゲット
2008年の主導権狙う

ビッグ3、ドイツ車メーカーが相次いで
ハイブリッド車の開発に本腰を入れ始めた。
彼らのターゲットはガソリン高騰で
ハイブリッド人気に火のついた米国市場。
ただしハイブリッド車は通常の
ガソリン車よりも割高という批判の声もある。
そこで燃費の良さだけでなく、
車両価格に見合った付加価値として
加速性能などの「走り」を強調する。


 これまでハイブリッド車に対して積極的でなかった米ビッグ3、さらにドイツの自動車メーカーが、ハイブリッド車の開発を加速させている。2004年末に米GM社とDaimlerChrysler社はハイブリッド車の開発で提携。これまでトヨタが手がけてきた2モータ方式に独自技術を加えて、2007年には車両を販売する。同年にはドイツBMW社もSUV「X5」に大容量キャパシタを組み合わせたハイブリッド車「X5 Efficient Dynamics」を開発している。ドイツPorsche社は2005年9月にハイブリッド車の計画を発表する予定だ。
 背景には2003年以降のガソリン価格の高騰がある。2003年の米国におけるガソリン平均価格が1ガロン(3.785L)あたり1.56ドルだったのに対し、2005年4月には2.28ドルを記録した。これに歩調を合わせるように、米国ではハイブリッド車の販売台数が2004年に8万7793台と、前年の倍近くに増えた。ビッグ3、そして米国に進出しているドイツ車メーカーもハイブリッド車を無視できなくなった。さらに、有害物質の排出が少ない車両の販売を義務づける米カリフォルニア州のゼロエミッション規制(California Zero-Emission Vehicle Regulation)が追い打ちを掛ける。2003年の同法改正で、有害物質の排出が少ない「AT-PZEV」車両の販売比率を全体の4%以上にすることが義務付けられた。AT-PZEVに該当するのは、今のところ「プリウス」(トヨタ自動車)「シビックハイブリッド」(ホンダ)「Escape Hybrid」(米Ford Motor社)などのハイブリッド車以外では天然ガス車しかない。
 米国でハイブリッド車は今後も拡大を続ける見込みだ。2009年には50万台規模、シェアで3%まで拡大すると米J.D.Power社は予測している。 してきたことは、欧州で乗用車の主流がディーゼルになりつつあることを象徴している。

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【PART2】開発最前線
燃費と走りで新たな魅力
独自方式の開発も進む

トヨタが1997年に発売した「プリウス」も、
当初は動力性能に不満の声があった。
しかし一部改良、全面改良を経て
多くの人の支持を得るようになった。
後を追う他のメーカーは独自方式を追求する。
高速走行時の燃費などで
トヨタ方式と差別化しようとしている。


トヨタ

減速歯車で高出力化に対応した「THS II」

 トヨタ自動車のハイブリッド車戦略が、拡大を続けている。2005年3月に「ハリアーハイブリッド」「クルーガーハイブリッド」(図)を発売したばかりだが、2006年には後輪駆動車の「Lexus GS 450h」が続く。米国で最も売れている乗用車「Camry」のハイブリッド版も、2006年後半から米国で生産する予定だ。特にハリアー/クルーガーハイブリッドは燃費だけでなく、運動性能も良くできることを実証した。

 トヨタのハイブリッド機構「THS II」は、シリーズハイブリッドとパラレルハイブリッドの特徴を併せ持つ。エンジンの動力を車輪に伝えるモード、エンジンで発電してモータで走行するモード、エンジンを停止してモータだけで走行するモードの3種類を状況に合わせて使い分ける。
 動力分割機構として遊星歯車機構を使い、エンジンの動力を出力軸と発電機に分配する。発電機で得たエネルギは充電に、あるいはモータの駆動に、状況に合わせて振り分ける。他社が採用する1モータ方式では自動変速機を使うが、THS IIでは遊星歯車が無段変速機として機能するため、独立した変速機が不要だ。

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図●トヨタ自動車「Highlander Hybrid」(日本名:クルーガーハイブリッド)
米国では2005年6月に発売。「ハリアーハイブリッド」と同じパワートレーンを使うが、米国では前輪駆動仕様を用意する。ハイブリッド化で発熱量が増えたため、バンパーの吸気口を大型化した。

ホンダ

気筒休止と組み合わせて高速域も燃費改善

 ホンダが2004年12月に北米市場に投入した同社として第3世代のハイブリッド車「Accord Hybrid」は、走りと燃費の両立を目指した(図)。トヨタと方向性は同じだが、その実現方法は大きく異なる。1モータ方式を採りエンジンでの走行がメインとなるIMA(Integrated Motor Assist)システムを採用しているからだ。

 1999年に同社が発売した「インサイト」は専用ボディと手動変速機を組み合わせて燃費の世界記録を狙った車、2002年の「シビックハイブリッド」は大量生産車への適用と、いずれも燃費改善が目的だった。一方、Accord Hybridは、トヨタ自動車の「ハリアーハイブリッド」などと同様、燃費だけでなく出力の向上を狙った。

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図●「Accord Hybrid 」
2004年12月に北米で発売。最高出力(エンジン+モータ)は190kWで、最大トルクは315N・m。車重はフロントフードをアルミ化するなどで、50kg増に抑えた。

GM、DaimlerChrysler

プリウス超えを狙う2モード方式

 2004年12月13日に、GM社とDaimlerChrysler社(以下、DCX社)がハイブリッドの共同開発を発表した。これまで燃料電池を将来の主流と位置付け、ハイブリッド車を積極的に開発していなかったビッグ3が、いよいよ本気で開発を始めたことになる。彼らが共同開発する機構が「2モードフルハイブリッド」(図)だ。

 2モードフルハイブリッドは、正式名称を「Advanced Hybrid System 2(AHS2)」といい、モータを二つ使う点はトヨタ自動車の「プリウス」と、さらに遊星歯車を二つ使うのは「ハリアーハイブリッド」と同じだ。AHS2最大の特徴は低速走行時と高速走行時でモードを切り替え、ハイブリッド車の弱点と言われがちな高速巡航での燃費を改善する点にある。また、高速モードの燃費改善策として、気筒休止なども取り入れる。

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図●2モードハイブリッド機構
写真左が「AHS2」のカットモデル。モータの内周に遊星歯車機構を持つ。写真右はAHS2を搭載したコンセプトカーの「GMC Graphyte」。2005年のデトロイトショーで発表した。

Ford

横幅を抑えて複数車種への展開が容易

 米Ford Motor社はビッグ3の中でもいち早くハイブリッド車をラインアップに加えた。2004年に「Escape」、2005年に「Mercury Mariner」を発売し、続いて2008年にセダン2車種を予定する(図)。ハイブリッド機構にはアイシン・エィ・ダブリュの「HD-10」を採用する。

 HD-10はプリウスと同じく、エンジンの出力を遊星歯車機構で分割する2モータ方式。サンギアが発電機で、キャリアがエンジン、リングギアが出力軸とモータにつながっている点もプリウスと同じだ。ただしエンジン、発電機、モータを同軸上に配置するプリウスとは異なり、出力軸(出力70kW)をデファレンシャルギア側に配置した。

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図●「Mariner Hybrid」
2005年5月に米国で発売。「Escape Hybrid」と同じパワートレーンを持つ。

Volkswagen

エンジンをクラッチで切り離しモータ走行

 ドイツのVolkswagen(VW)社は、4月に開かれた電気自動車の国際シンポジウム「EVS21」で、ディーゼルハイブリッド車「Golf TDI Hybrid」を公開した。1モータ方式ながら、エンジンとモータの間にクラッチを搭載することで、モータだけで走行できる。

 VW社は開発中のシステムがガソリン車とディーゼル車の両方に適用可能とし、2008年までに実用化したいと述べた。EVS21ではどちらと組み合わせるか明言しなかったが、2005年4月に「Golf GTI」の試乗会で来日したAMT(Automated Manual Transmission)の開発責任者Michael Schafer氏は、「2008年ごろに投入予定なのは米国で、対象はガソリン車」と語った。
 欧州ではパワートレーンとして、ディーゼルエンジンと手動変速機が主流だが、米国ではガソリンエンジンと自動変速機がほとんど。今回、開発したシステムはAMTと組み合わせるため米国に向くという。
 VW社の特徴は、1モータ方式を採用しながら、エンジンとモータの間に電子制御式の乾式クラッチを搭載したことだ(図)。これにより、停止から発進、緩い加速まではモータ走行が可能になる。実際、試乗したところ30km/hまで程度までモータで走行していた。

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図●「Golf TDI Hybrid」の走行状態モニタ画面
エンジン、モータの作動状態、電池の充電状態を示す。写真は減速時にエンジンを止めて回生している状態を示している。


【PART3】立ちはだかる課題
電池の進化が低コスト化の鍵
2010年にはLiイオンが主流か?

ハイブリッド車の普及に大きく立ちはだかるのが、
コスト削減や燃費の改善、
システムの小型軽量化などの課題である。
より安く、より効果が高く、
しかもパッケージの制約がない
ハイブリッドシステムを実現するための
鍵となる技術を探る。


 コストや燃費低減、小型軽量化の課題に対して、最も重要な要素が2次電池だ。安くて、軽くて、性能の良い電池が実現すれば、ハイブリッド車は一気に普及するだろう。実際、ホンダによると、ハイブリッド車の主要4部品(電池とインバータ、高圧電装部品、モータ)のコスト比は4対2対2対1.6と、電池が一番高い。

Ni-MH電池を使い低コスト化
 現在ハイブリッド車に搭載されている電池は、ほとんどすべてがNi-MH(ニッケル水素)2次電池だ。最大手は、トヨタ自動車やホンダ「シビックハイブリッド」に供給しているパナソニックEVエナジーで2004年度の生産台数は30万台分。このほか三洋電機がホンダの「Accord Hybrid」、米Ford Motor社の「Escape Hybrid」に供給中。Ni-MH電池は、エネルギ密度や出力密度がLiイオン2次電池の半分程度であるが、信頼性やコストの点から当面主流であり続けそうだ。
 自動車メーカー各社はNi-MH電池を使いながら、コストダウン、小型化の努力を続けている。例えば、ホンダのAccord Hybridでは、電池モジュールの接続単位を改めて、電池周りの部品を削減した。これまでは6セル単位でモジュールを作り、円筒状の電池モジュールの両側を電極接続用のバスプレートで接続していた。これを6セルずつのモジュールを互い違いに2本並べて、正極と負極が隣り合う構造に変更。パスプレートは片側で済むようになり低コスト化できた。また、樹脂製ケースの内部の電池を支えるホルダの形状を変更し、10%小型化した。

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