日経オートモーティブ 技術レポート

可変圧縮比エンジン
リンクを使う日産
歯車を使う仏企業

日産自動車とフランスの開発型ベンチャー企業であるMCE-5社は、奇しくもほぼ同時期に、走行中に圧縮比を変えられる可変圧縮比(VCR:Variable Compression Ratio)エンジンの開発を発表した(図)。ターボと組み合わせることで、出力、燃費を10%以上高めることができる。

 両社が開発した可変圧縮比エンジンは、ともに走行中に圧縮比を8:1~14:1に変えられるもの。日産は2月に開催した報道関係者向けの先進技術説明会で公開、MCE-5社は2005年1月から外部企業への技術の売り込みを始めた。
 エンジンは、圧縮比を高くしたほうが効率は高まり、燃費が良くなるが、ノッキングが起こりやすくなるため、最近のエンジンでは圧縮比をせいぜい10:1にとどめていた。しかし実際には、ノッキングが起こりやすいのは高負荷・高回転の運転領域で、それほど負荷の高くない常用域では、圧縮比を14:1程度まで上げてもノッキングは起こらない。こうした運転領域で、可能な限り高い圧縮比にしてエンジン効率を上げられるのがVCRエンジンの特徴だ。
 特にメリットの大きいのがターボとの組み合わせ。ターボエンジンでは過給を行うため自然吸気エンジンよりもさらにノッキングが起こりやすく、圧縮比を8:1程度まで低くしている場合が多い。このため、エンジンの効率が低下し、燃費が悪くなる。VCRエンジンではノッキングが起こりやすい運転領域だけ圧縮比を8:1に下げて、常用域では圧縮比を上げられるので、自然吸気エンジン以上に燃費・出力の向上効果が大きい。ターボエンジンとの組み合わせでは「燃費・出力ともに10%以上向上できる」(日産)という。

日産はリンク機構を採用
 VCRエンジンは過去にも様々な方式が提案されてきた。しかしどれも、複雑になる、重くなる、大きくなる、信頼性が確保できないなどの難点があり、これまでに実用化された例はない。
 こうした中で日産は新たに、クランク軸とコンロッドを直接つなぐのではなく、リンクを介してつなぐマルチリンク式のVCRエンジンを考案した。マルチリンク機構によって上死点の位置をずらし、圧縮比を変える。こうした方式も過去に提案されたことはあったが、リンク機構の振動が大きくなってしまう、エンジンサイズが大きくなるなどの理由から、やはり実用化には至っていない。

日経オートモーティブ 技術レポート
図●フランスMCE-5社が開発したVCRエンジン
クランク軸を、リンクを介してピストンが駆動するのは日産と同じだが、リンクとピストンが歯車でかみ合っている点が異なる。