日経オートモーティブ 解説

 アクセルを踏み込むと、ぐっと背中がシートに押し付けられ、ガソリン車では味わえないような強力な加速が始まる。しかも、エンジン音がほとんど高まることなしに。何とも不思議な感覚だ。
 ここは、JR新川崎駅に程近い、慶応義塾大学のK2(ケースクエア)タウンキャンパスの敷地内。それほど広い場所ではないのでスピードは出せないが、それでも、電気自動車の加速の強力さは十分体感できた。
 この電気自動車「Eliica」を開発したのは、同大学環境情報学部教授の清水浩氏である。「電気自動車は加速が悪いというイメージがある。それを変えたかった」と同氏はEliicaを開発した理由を語る。

燃料電池車より高効率
 清水氏が電気自動車の開発を始めてからの歴史は長い。最初の電気自動車の開発に手を染めたのは同氏がまだ当時の環境庁に勤めていた1983年。富士重工業の「レオーネ」を改造した電気自動車を製作したのが最初だ。以来、7代にわたって電気自動車を製作してきており、今回のEliicaは8代目になる。
 清水氏は、燃料電池車よりも電気自動車の方が将来の自動車としては有望だとみている。その理由は二つ。環境性能の高さとインフラ整備の容易さだ。
 電気自動車は現在のガソリン車に比べてエネルギ消費量を大幅に減らすことができる。トヨタ自動車の試算によれば、ガソリン車の場合、原油からガソリンを取り出し、輸送するための損失が12%程度、車両効率が16%で、トータルのエネルギ効率は14%程度になる(10・15モード走行を想定)。
 これに対し、電気自動車を火力発電から取り出した電力で走らせることを考える。火力発電の中で現在最も高い効率を達成しているのが天然ガスを燃料とし、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたコンバインドサイクル火力発電。この効率が約50%である。送電時の損失が5%程度。これに電気自動車の2次電池に充放電するときの損失が20%程度、さらにモータで駆動する際の損失が20%程度と多めに見積もっても、総合効率は30%程度と、ガソリン車の約2倍に達する。

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図●慶応義塾大学の電気自動車「Eliica」
同大学環境情報学部の清水浩氏の研究室が製作した。1号車と2号車があり、1号車は最高時速370km/hを達成した(写真は2号車)。