日経ものづくり ドキュメント

レジェンドの開発 第6回

迷宮の 果てなき彷徨

夜間走行時の歩行者検出に赤外線カメラが
有効であることに気付いた辻孝之は,
橋本英樹と共に育て上げたナイトビジョン・システムを
「レジェンド」開発総責任者の齊藤政昭に売り込む。
商品には程遠い試作品ではあったが,
齊藤はその機能の有用性を実感。
レジェンドの安全技術の切り札として
同システムの採用を即決した。
商品化を目指し改良は順調に進む。
ところが役員プレゼンを目前に控え,
トラブルが発生する。

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 それは,あまりに突然の出来事だった。それまで正常に稼働していたナイトビジョン・システムが,歩行者を一切検出しなくなったのだ。商品化の可否を決める役員へのプレゼンをたった二日後に控えて。
 ナイトビジョン・システムの開発責任者である辻孝之はこの知らせを受け,開発拠点に駆け付ける。そこには,トラブルと必死で格闘する開発メンバーの姿があった。
「何も検出しないって,ホント?」
「はい」
「原因は?」
「それが,よく分からないんです。検出率が落ちたとか,誤認率が上がったとか,そんなレベルじゃなくて,とにかく何も引っ掛かってくれないんです」
「そんなばかな。昨日までは確かに動いていたのに。何か心当たりはない?」
「ええ,さっぱり」
 開発はある種,トラブルとの闘いだ。それは,ナイトビジョン・システムとて例外ではない。ある時には,検出精度が極端に落ちるというトラブルに見舞われた。長時間の走行で,エンジンの熱により赤外線カメラのハウジングが変形し,光軸がぶれてしまったのだ。ハウジングを設計変更する「事件」だった。しかし,今回は精度うんぬんというレベルではなく,歩行者を全く検出しないのだから,それ以上の「大事件」だ。辻は解決の糸口を求め,深い闇の中を彷徨っていた。