日経ものづくり 特集

巷で,長期保証をうたう製品がじわじわ増えてきた。保証期間が2年の2輪車, 10年の高級時計・・・。こうした製品が登場してきている背景には,市場が成熟し機能面 による差異化が難しくなってきたことや,中国製品や韓国製品などの氾濫で いまだに価格下落に歯止めがかからないことがある。製品に高い価値を 付けたい,競合製品と差異化したい,価格下落を食い止めたい。 そこで注目したのが,これまで護送船団方式で決めてきた保証期間だった。 これを独自に延ばせば,品質の高さもアピールできるし,手厚いサービスで 顧客も囲い込める。引いては,ブランド価値が向上する,と。 これこそが,他社の「ワンランク上」を行く製品戦略である。 (吉田 勝,荻原博之)

【PART1】保証期間はなぜ1年?
 業界一律で根拠は曖昧 延長で得る多くの果実

【PART2】長期保証導入のワケ
 CASE 1:電気保温釜(東芝コンシューママーケティング)
 CASE 2:雨どい(松下電工)
 CASE 3:高級腕時計(シチズン時計)
 CASE 4:アコースティック・ギター(ヤイリギター)
 CASE 5:2輪車( 川崎重工業)


【PART1】保証期間はなぜ1年?
業界一律で根拠は曖昧
延長で得られる果実

 床のほぼ全面に白大理石と黒御影石を敷き,革張りの調度品をセンス良く配置する。高級ホテルさながらのラウンジで客を出迎えるのは,2005年8月にオープンするレクサス高輪店(東京)。客の目当てはもちろん,トヨタ自動車がこの夏,満を持して投入する最高級車「レクサス」である。
 この店舗が象徴するように,世間の目はレクサスの高級感を演出する仕掛けや外観,機能ばかりに向きがちだ。しかしそのクルマには,こうした目に見えるところ以外にも「最高級のサービス」が用意されている。長期保証である。
 一般に,クルマの新車保証は,一般部品が3年間(もしくは走行距離6万km),ブレーキなど安全にかかわる重要保安部品が5年間(同10万km)で,点検や整備には別途手数料が必要になる。これに対しレクサスでは,一般部品も重要保安部品もすべて5年間(同10万km)の長期保証。初回車検までの3年間については,整備やメンテナンスを無償で提供する。
 世界を見渡しても,レクサス以外にこれほど手厚い保証を実施しているクルマは,今のところ,DaimlerChrysler社の高級車「Mercedes-Benz」の保証システム「メルセデス・ケア」を除いてほかには見当たらない。つまり,レクサスは技術や機能もさることながら,保証も世界最高の水準で,日本の高級車市場への参入を果たすのだ。勢い,こうした手厚い保証体制は「他社も追随せざるを得なくなるだろう」(ローランド・ベルガー パートナーの岡村暁生氏)。
日経ものづくり 特集
図●保証期間の長い製品を望む消費者
日経ものづくりの調査結果から。「多機能で保証期間の短い製品」よりも「機能は限られているが保証期間の長い製品」を選ぶとの回答がはるかに多い。ユーザーの多くは多機能よりも長寿命を求めている(a)。価格との比較でも「少し高価だが保証期間の長い製品」を選ぶとの回答が「安価で保証期間の短い製品」の3倍も多い(b)。安価な製品や多機能の製品よりは,保証の長い製品を望む消費者が多い。


【PART2】長期保証導入のワケ
CASE 1:東芝コンシューママーケティング
電気保温釜の内釜
3年保証

はがれないコーティングを追求
3倍長持ちで使い手の心つかむ


 どの家庭にもあり,毎日使う家電製品の一つが電気保温釜。可動部が少ないため一見壊れにくそうだが,メーカーは,内釜の内面をコーティングしているPTFE(四フッ化エチレン樹脂,以下フッ素樹脂)がはがれやすいという問題に長い間悩まされていた。東芝コンシューママーケティングは,成分の異なるフッ素樹脂を多層コーティングすることでこの課題を解決。従来1年だった内釜の保証期間を3年に延長することに成功した(図)。

30年来の課題
 「3年保証に対しては好評価を得ており,ブランド力のアップにつながっている。3年保証=東芝というイメージを定着できた」(東芝コンシューママーケティング家電事業部クッキングハウスホールドクリエーション部グループ長の守道信昭氏)。
 購入者の9割は買い替え。多くのユーザーがコーティングのはがれを経験しており,これを3年保証してくれることに魅力を感じているようだ。
 以前は購入後1年ほどたつとコーティングがはがれ始めるため,ユーザーから内釜に関して多くの問い合わせがあった。炊飯器の買い替えサイクルは平均で約7年だが,内釜だけ交換したり購入したりするユーザーも少なくなかったようだ。しかし,今ではコーティングのはがれに関する問い合わせはほとんどないという。

日経ものづくり 特集
図●内釜の保証を1年から3年に延長した東芝の電気保温釜
IH加熱と圧力可変機能を搭載する「RC-10KW(SL)」。


【PART2】長期保証導入のワケ
CASE 2:松下電工
雨どい
5年保証

デザイン重視で変色を抑えたい
耐候性樹脂で業界初の長期保証


 軒先に1本のラインを描く雨どい(図)。そこを見つめる消費者の目が厳しくなってきた。排水機能さえ果たせばよいというのは,昔の話。今ではそれに加えて,長持ちすることや仕上がりの美しさが求められる。
 とりわけ,仕上がりの美しさに対する要求は高い。最近の住宅はデザインを重視する傾向にあるため,それに調和する住宅資材が必要になってきたのだ。無論,雨どいも例外ではない。松下電工によれば,最近では(1)色や形状などデザイン性に優れる(2)好み通りに仕上げることができる(3)施工時の美しさを長期間持続する─といった住宅の外観デザインを引き立たせるための雨どいに人気が集まっている。
 こうした要求に応えるべく競合各社がしのぎを削る中,同社が他社以上に注力するのが(3)だ。当然,雨どいは紫外線を受けて変色していく。施工から2~3年もたつと,住宅の外観や雨どいを支えるつり具といった各種部品との間に色調の差が出始める。同社はこの差を目立たなくするために,変色しにくい雨どいの開発に成功した。
 しかし,難しいのはアピールの仕方だ。変色しにくいという機能は,数年経過して初めて認めてもらえるもの。促進試験の結果を示したところで,販売時点ではなかなか実感してもらえないのが実情だ。そこで,同社が打ち出した戦略が長期保証。「本体および部品の保証2年」「材質上に起因する雨漏りの保証5年」に加えて「変色差の保証5年」を新たに追加した。変色差保証は,業界初の試みだった。

日経ものづくり 特集
図●松下電工の雨どい
最近では基本の排水機能に加えて,耐候性やデザイン性が求められてきている。


【PART2】長期保証導入のワケ
CASE 3:シチズン時計
ザ・シチズン
10年保証

新技術開発のヒントが潜む
メンテナンス時の異変情報は宝


 腕時計のメーカー保証期間は一般に1年。これに対しシチズン時計の最高級モデル「ザ・シチズン」は実に10年と極端に長い(図)。小傷や汚れを除き,10年以内に生じた自然故障なら無償修理に応じる。
 ザ・シチズンの場合には同時に,無償点検と生涯修理対応がうたわれている。無償点検は,時計の精度と品質を保つために保証期間内に最大3回実施する。具体的には,電池交換の時期になると,シチズンテクニカルサービスセンターから顧客に知らせが届く。同センターに時計と点検調査書を送ると,電池交換と一緒にパッキングの交換や時間精度の点検などを実施し返却してくれる。一方の生涯修理対応は,修理部品を長期保有する体制を敷くことで,保証期間後の修理に有償で対応する。
 こうした体制を支える仕組みが「お客様登録」。ザ・シチズンを購入した時に渡される「お客様登録カード」に必要事項を書き込み,同センターに送る。すると,ユーザーリストに登録されると同時に「ザ・シチズン カスタマーカード」が発行される。以降,無償点検などの案内が届くようになるのだ。
 当然,保証を厚くするほど,長期にわたる無償点検や部品在庫の管理などでコスト負担は大きくなる。それでもシチズンが長期保証を続けるのは,ユーザーの生の声を吸収できるからだ。

日経ものづくり 特集
図●シチズンの最高級モデル「ザ・シチズン」
10年保証に加え,無償点検,生涯修理対応の手厚い保証が付く。


【PART2】長期保証導入のワケ
CASE 4:ヤイリギター
アコースティック・ギター
永久保証

高品質より生きる道なし
だから世界のトップブランド


 岐阜県可児市。昔は田畑だらけだったというその場所に,世界に名を馳せる高級ギターメーカーがある。ヤイリギター。サザンオールスターズの桑田佳祐やポール・マッカートニーら国内外の多くのトップアーティストが,このヤイリのギターを愛してやまない(図)。
 「買った人を大事にするだけ。高いけど,買って良かったと喜んでもらう。これが本当のサービス」。同社社長の矢入一男氏の言葉は明快だ。その一つの証しが「完全永久保証システム」。修理にはいつでも快く応じる。修理費は取らない。部品代を実費でもらうだけ。修理に長期間を要する場合には,引渡しまで代わりのギターを提供する。そして何より,修理に持ち込まれたギターと新しく製作しているギターでは,前者,すなわち修理に持ち込まれたギターの作業を優先する。
 この完全永久保証システムの背景には,楽器は長く使うもの,という同氏の哲学がある。「欧州では,一度買った楽器を大事に長く使い,古くなった楽器を互いに自慢し合う。楽器とは本来そうあるべきもの。弾きこなすほどに愛着を感じてほしい」。
 長く使う─。そのために同社では,30人の職人が品質と技術にこだわり,ギター作りに汗を流している。

日経ものづくり 特集
図●ヤイリのギター
多くのアーティストが支持する。注文から納品まで現在は1年待ち。


【PART2】長期保証導入のワケ
CASE 5:川崎重工業
2輪車
2年保証

ファンを逃がさないために
初期不良対応を超えた付き合い


 2005年4月,川崎重工業は,市販の2輪車の新車保証をそれまでの1年から2年に延長すると発表した(図)。「販売店との契約を一新したのを機に,保証期間も見直しを図った」(カワサキモータースジャパン代表取締役専務の表具登志雄氏)。カワサキモータースジャパンは,スポーツバイクに強い川崎重工業の販社。2005年1月に販売店である「カワサキ正規取扱店」との契約を刷新した。保証期間の延長は,この販売網強化策の一環だ。
 安心・安全・信頼の強化が販売につながるとして,アフターサービスや対面販売を強化すること,ブランドを表現するスペースを設けることなどの条件を販売店に提示して,契約内容を見直した。販売店にとってはこれまでより厳しい条件。このため「100拠点ほど減った」(表具氏)が,単に製品を販売するのではなく,サービスの重要性を理解してもらい,顧客への訴求力を高めたいとの狙いがある。

日経ものづくり 特集
図●川崎重工業の2輪車
「ZRX1200R」は,スポーツバイクを得意とする同社のフラッグシップ・モデル(a)。単気筒で250ccの「Estrella」は,丸みのあるベーシックなデザインを特徴とする(b)。2005年からすべての車種の保証を1年から2年に延長し,顧客満足度の向上を図っている。販売はカワサキモータースジャパンが担う。