2000年秋に「Cell」の基本構成はまとまった。PowerアーキテクチャのCPUコアと「APU」と呼ぶ単純な信号処理プロセサを複数個集積したものだった。各APUは演算ユニットと「Local Store」と呼ぶ専用メモリ,そしてDMAコントローラを備えていた。

 この構成は,コンピュータ・アーキテクチャの常識から見れば明らかに奇異だった。APUにキャッシュではなく専用メモリを組み込むという選択は通常はあり得ない。格納するデータをハードウエアが管理するキャッシュならば,プログラマーがその存在を意識する必要がないのに対し,専用メモリではデータをソフトウエアで明示的に管理しなければならないからだ。当時想定していた専用メモリの容量はAPU1個当たり128Kバイト。数十Mバイトに及ぶアドレス空間の利用に慣れたプログラマーの目に大きな制約として映るのは自明だった。