日経ものづくり 直言

辺境の漁港に金型の寺子屋
ものづくりに取り組む宮古市

 岩手県宮古市といえば,三陸ワカメ,アワビ,ウニの産地として知られる。人口5万人以上の市としては東京からの時間的な距離が最も遠いとされる。東京から新幹線で盛岡まで2時間半,さらにバスで2時間強。全体で5時間はかかり,東京から日帰りできるところではない。私は産業振興の指導のために,この7年で20回ほど通った。実はこの宮古,金型企業が20数社も集積し,「コネクタの街」「金型の街」を目指している。
 熊坂義裕市長(1952年生まれ)は医師出身。全国の市長の中で唯一ケアマネージャーの資格を保有している。そのキャリアからして,政策の基本は「福祉の充実」。だが,その実現のためには「産業振興」「ものづくり」が不可欠と認識している。企業誘致にも熱心であり,2004年も神奈川からコネクタ企業の誘致に成功した。
 地域のリーディング企業はコネクタの東北ヒロセ電機と金型部品のパンチ工業。周辺には中堅どころのコネクタ・金型メーカーのエフビー,ジャピター工業,モルデック,和田工業などが展開,刺激的な環境が形成されている。キーマンは市職員の佐藤日出海氏(1955年生まれ)。市長からの信頼も厚く,ほとんど異動もせず地域産業振興に走り回っている状況だ。

日経ものづくり 直言
一橋大学大学院教授
関 満博

1948年生まれ。専修大学助教授などを経て,1998年一橋大学教授。主な著書に『現場主義の知的生産法』など。中小企業論,地域経済論の第一人者。