数日前までの真夏を思わせる陽気は影を潜め,目と鼻の先にある海からはかすかな潮の香りとともに秋風が吹いていた。1999年9月18日。JR京葉線の海浜幕張駅から幕張メッセに向かう道には朝から,一筋の急流のようにあふれんばかりの人の波ができていた。われ先に歩を進めるのは,その日から一般公開が始まった「東京ゲームショウ ’99秋」の来場者たちである。

 会場に着いた彼らの多くは,脇目も振らずソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のブースに向かう。目当てはSCEが5日前に満を持して仕様を発表したばかりの次世代ゲーム機「プレイステーション 2」(PS2)だ。この展示会のためにSCEが用意したPS2の試作機は17台。その多くを,半年後に迫ったPS2の発売に向け開発の真っただ中にあった新作ゲームの実演に使った。

 初代「プレイステーション」と比べて約10倍の周波数で動作し,6.2G FLOPSという当時最先端のパソコンをしのぐ浮動小数点演算性能を発揮するマイクロプロセサ「Emotion Engine」と,4MバイトものDRAMを内蔵したグラフィックスLSI「Graphics Synthesizer」。この2つのLSIによって可能になる新次元のゲームとはいったいどんなものか。開発途上のゲームとはいえ,その実力のほどは垣間見られるに違いない。自らの目でそれを確かめようと次から次へと詰め掛ける来場者たちで,SCEのブースは立錐(りっすい)の余地もない混雑ぶり。そこだけ盛夏のような熱気に包まれていた。