道なき道へ
2010年を境界に 見えない機器が増殖する

2010年ごろ,エレクトロニクス業界の長年の目標だった各種のデジタル機器のHDTV対応が完了する。その先に待つのは,「見えない機器」の実現だ。ユーザーに存在を意識させないことで,1人当たり何十台もの機器を使ってもらうことを目指す。物理的な紙やモノの代わりに現実に入り込み,多彩な活動の支援を狙う。発想は古くからある。実現につながる技術が,ここにきて見えてきた。有機エレクトロニクスと,独自の普及戦略がカギを握る。

新たなロードマップ
有機版「ムーアの法則」へ メモリやマイコンも視野に

現在,有機ELなどディスプレイ向け技術として注目を浴びる有機エレクトロニクス。しかし,2010年以降を想定すると,必ずしもディスプレイ分野に限らず,メモリやマイコン,太陽電池,センサなどさまざまな部品に広がりそうだ。まずはディスプレイで製造技術や信頼性確保技術を培い,その後は,Si系半導体の集積度に代わる新たな成長軸を確立する。さまざまな分野の技術者を引き付ける有機版「ムーアの法則」を見つけられれば,Si系半導体に匹敵するエレクトロニクス産業の柱として期待できる。

これが突破口
有機技術の得意技 まずディスプレイで生かす

大面積を安価に実現--。そんな有機エレクトロニクス技術の特徴は,まずディスプレイの分野で生かすことになりそうだ。Si(シリコン)製トランジスタを有機トランジスタに置き換えることで,フルカラーでドット表示型の「紙」のようなディスプレイが実現する。2010年に向けて,その要素技術は着々とそろいつつある。ここで踏み出す第一歩は,有機エレクトロニクス技術の応用範囲を広げる突破口になる。

普及への戦略
見えないエレクトロニクスを環境の中に溶け込ませる

「201X年には,こんな技術が実現できます--」
このような技術ロードマップに従うだけでは,「見えないエレクトロニクス」がもたらす新しい機器やサービスの普及は望めない。ユーザーが体験したことがない機能を受け入れてもらうのは,並大抵のことではないからだ。普及に向けた戦略の立脚点は2つある。ユーザーの隠れた要求を調べ尽くして設計に生かす「ユーザー中心設計」と,コンテンツのクリエーターやサービス事業者などの懐深くに入り込む「協業体制」の充実だ。

見果てぬ夢
時間旅行にサイボーグ 究極目指す研究開発

「見えないエレクトロニクス」の先にある未来を占う研究開発が進んでいる。極端なアイデアでは,個人の行動を残らず記録し情報の世界で「タイムマシン」を実現しようとの試みが始まった。

思うだけで機器を動かす
ブレーン・マシン・インタフェース

 「チャンネルよ,変われ!!」
 こう頭の中で念じるだけで,本当にテレビのチャンネルを変えてしまったら…。考えるだけで,パソコン画面上のカーソル位置を自在に操れたら…。こんな夢のような技術が現実になる日が,じわじわと近づいている。