雑誌 特集

悩める技術者の幸福論

田野倉 力
2005/04/26 20:17
 
日経ものづくり 特集

製造業の技術者を取り巻く環境の変化が著しい。世界市場で競争が激化し,コスト削減の圧力は日増しに増える。「優勝劣敗」の環境下で,会社からは確実で素早い成果が求められている。一方で,日本全体として「強いものづくり」への原点回帰が進む中,技術者に対する期待がにわかに高まっている。こうした境遇にある技術者は,今後,何を大切にし,どのような道を歩んでいくのか。技術者が幸福を手にするためのヒントを探った。(近岡 裕)

日経ものづくり 特集


Part1【幸福への片道切符】
望む仕事を貫いて実力を磨く
技術者への期待が高まる

日本のものづくりの中心を担う技術者への期待が大きくなっている。 一方で,競争の激化や利益主義の徹底などで受ける負担も増大している。 こうした中,技術者として活躍するためには何が必要なのか。 そして,技術者として幸せに生きるために大切にすべきことは何か。

 「今,ソニーに必要なのは,ものづくりの現場の力や,若い技術者を引っ張って行く力だ。現場の技術者をまとめ上げ,彼らのやる気を高めるトップが必要だ。それができるのは,おまえしかいない」。
 現在,業績不振に苦しむソニーをこれまで10年間率いてきた同社代表執行役会長兼グループCEOの出井伸之氏が,次の代表執行役社長兼エレクトロニクスCEOとして白羽の矢を立てた人物に,殺し文句を投げた。
 一晩の猶予を得たその人物は,熟考の末に決意を固める。翌日,出井氏に力強く答えた。
 「私は,やります」─。
 ソニーの喫緊の課題は「ものづくりの復活」をおいてない。その切り札として選ばれ,受けて立ったこの人物は,入社以来一貫して技術畑でキャリアを積んできた中鉢良治氏だ。

Part2【技術で生きる10人の幸福論】CASE01
旭化成エレクトロニクス 吉野 彰氏
研究の目的を事業化の成功に置き
市場調査を徹底してフェローに昇格

 持ち歩ける電子機器に,今やリチウムイオン2次電池は欠かせない。この電池は正極にコバルト酸リチウム(LiCoO2),負極にカーボン(C)を使う。1985年にこの基本構成を発明し,基本特許を成立させたのが,吉野彰氏だ。同氏が研究者としてこの発明を成し遂げたのは,常に顧客に役立つための研究を意識し,貫いてきたからである。

Part2【技術で生きる10人の幸福論】CASE02
山武レクシオンカンパニー 木幡真望氏,村上英治氏
仲間を見つけてアイデアを形に
熱意でトップを説得して社内起業へ

 2003年6月,山武の中で小さな会社が産声を上げた。木幡真望氏を“社長”とし,村上英治氏を“最高技術責任者”とする社内ベンチャー企業「レクシオンカンパニー」だ。

Part2【技術で生きる10人の幸福論】CASE03
アルプス技研 気賀澤文人氏
プリンタから半導体装置まで
幅広い技術の習得で実力を高める

 人件費の抑制や開発サイクルの短期化,若い技術者の不足などの背景から,大手メーカーを中心に派遣技術者の採用が増えている。製品にもよるが,例えばある大手自動車メーカーでは「クライアント・メーカーの正社員が1~2割で,残りはすべて派遣技術者が占める」(ある人材派遣企業)という開発現場もある。

Part2【技術で生きる10人の幸福論】CASE04
佐藤R&D 佐藤国仁氏
自分の権限で仕事をしたい
プロの技術士を目指して独立

 かつて,東急車輌製造の技術者だった佐藤国仁氏。同氏の最大の転機は,2000年に訪れた。在職中に取得した技術士の資格を生かし,定年を待たずに退職して独立して佐藤R&Dを立ち上げたのだ。機械や安全技術に関するコンサルティングをはじめ,技術士や技術士補の資格を得るための受験指導などの業務を精力的にこなす。

Part2【技術で生きる10人の幸福論】CASE05
青山特許事務所 田村 啓氏
知識とスキルを直接顧客に提供し
創造性も発揮できる弁理士に

 青山特許事務所で活躍する弁理士の田村啓氏。ある大手電機メーカーから弁理士へと転身した元技術者だ。
 1992年に大学院修士課程を修了した田村氏は,同メーカーの半導体事業部で小型のTFT液晶パネルの後工程を担当する。当時,会社はTFT液晶パネルの事業を立ち上げたばかり。

Part2【技術で生きる10人の幸福論】CASE06
インターメタリックス 佐川眞人氏
冷遇されても自分の研究を継続
夢を求めて転職し,さらに独立へ

 永久磁石に関するコンサルタント業務や量産プラント,新磁石の開発などを手掛けるインターメタリックス。同社の代表取締役の佐川眞人氏は,現在,最高の磁力を誇るネオジム・鉄・ボロン磁石の発明者として知られる研究者だ。ネオジム・鉄・ボロン磁石の発明の糸口をその手につかみ,最後まで離さずに進んできた。同社の起業はその延長線上にある。

Part2【技術で生きる10人の幸福論】CASE07
アーベル・システムズ 鈴木文雄氏
システム全体を見渡しながら
人にやさしい製品を作るために起業

 アーベル・システムズは,システムLSIを使った独創的な製品の開発を目指すベンチャー企業。三菱電機で技術者として活躍し,定年退職を迎えた鈴木文雄氏が2000年に立ち上げた。竹を使ったフィラメントで風にそよいで光る「風前灯」や,人工衛星の姿勢制御用システムLSI,光を電磁波としてとらえることで効率良く光を出し入れできる「誘電体ナノアンテナ」など,付加価値の高いユニークな製品の開発を既に幾つか手掛けている。

Part2【技術で生きる10人の幸福論】CASE08
パウデック 河合弘治氏
新しい産業を興したい一心で
安定よりも挑戦的な人生を選ぶ

 ベンチャー企業のパウデック代表取締役社長を務める河合弘治氏。同氏はソニーから独立し,会社を起こした元研究者だ。
 大学を卒業した1969年,河合氏はソニーに入社し,中央研究所に配属された。大学ではボート部で合宿漬けの日々を送った同氏は「その反動でとにかく勉強がしたかった」ことから,研究者として働けることに喜んだ。

Part2【技術で生きる10人の幸福論】CASE09
田村 至氏
退職後の仕事も趣味も両方大事
中国への技術指導で願いをかなえる

 1966年,ある精密鋳造メーカーに入社した田村至氏は,定年を迎えた後,技術顧問を経て2003年3月に同社を退職した。定年までに技術者として十分に現場で腕を振るい,技術顧問になってからは全社的に技術を指導することも経験した。このまま引退してもよいと思う一方で,まだ働く気力も残っている。もう1~2年ぐらい働らこうかと迷っていたある日,1冊の雑誌を手にした。

Part2【技術で生きる10人の幸福論】CASE10
早稲田大学 川本広行氏
メカニズムの原理追求を望み
自由な研究環境を求めて大学教授へ

 早稲田大学理工学部機械工学科教授の川本広行氏が望む仕事は「メカニズムの原理追求」だ。研究者として,機械や装置などがなぜ動くのか,その原理を抽出して解明することである。同氏の半生は,こうした研究ができる環境を求めて渡り歩いた歴史だ。

Part3【転職への片道切符】
技術者の求人は現在絶好調
自分を成長させる会社が第1志望

製造業の技術者にとって,最も身近なキャリアパスの一つが他メーカーへの転職だ。 技術者にとって転職市場は今,極めて好調に推移している。 転職を支援する企業の現場で転職を望む技術者と向き合うコンサルタントに, 求人の増加の背景や,技術者が抱える悩み,高く評価される技術者像を聞く。

 「なぜ会社を辞めたんだ。何かまずいことでもしたのか?」─。
 早稲田大学理工学部機械工学科教授の川本広行氏は,日立製作所から富士ゼロックスに転職し,その後現職に就いた経歴を持つ。同氏が日立製作所を辞めて富士ゼロックスに入社した際に,周囲の技術者は同氏に真顔で冒頭のように尋ねたという。1991年,今から14年ほど前のことだ。

日経ものづくり 特集
●現在の技術者の価値観
個の主張を持つ技術者が増え,会社よりも自分の成長をより重視する。
イラスト:根本 孝

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