日経ものづくり 開発の鉄人

第12回 ボリュームゾーンは狙わない

「開発の鉄人」こと 多喜 義彦

チューニング部品のエッチ・ケー・エス(本社静岡県富士宮市)。
“台数至上”の自動車業界にあって,対象を絞り込んで仕事をする。
一般人お断り。クルマ好き,走り好き大歓迎。
彼らはクルマのためなら出費を惜しまない。
ボリュームゾーンを少し外したところに,
おいしい市場があるはずだ。


 エッチ・ケー・エスの長谷川浩之社長とは「こだま」でよくお会いする。彼の会社が新富士の近くで,私は時々三島へ行くからね。実は15年くらい前に顧問をしていた時期がある。立派な会社になっちゃったけど。

半音高い歌を歌う
 エッチ・ケー・エスというのはクルマのチューニングに使うアフターマーケット部品で大きな存在感を持つ。製造を下請けに任せて“商社”になっちゃっているところも多いが,エッチ・ケー・エスは電気モノの一部を除いてほとんど内製だ。
 単なるチューニング屋さんと思ってはいけない。守秘義務があって,長谷川社長も詳しくは教えてくれないんだけど,大メーカーの一番スポーティーなモデルなんかは,開発から何からエッチ・ケー・エスに丸投げらしい。大メーカーはリストラで,台数の出ないモデルの設計に人を割く余裕がなくなってるんだ。走り込んでの仕様決定って,ある意味チューニングだからね。
 初めから「1社当たり年産400万台で勝負」なんてことは考えてない。そんなことは大メーカーに任せておけばよい。クルマが好きな,走りが好きなお客様に絞り,そこで利益率の高い仕事をする。私は「半音高い歌を歌え」って言うんだけど。人とちょっと違うことをするのが成功の秘訣なんだ。ボリュームゾーンは誰でも狙うからね。

日経ものづくり 開発の鉄人
●ドグクラッチ
回転力はギアからセレクタリング,さらにシャフト(描いていないが中心にある)へと伝わる。またはその逆。