日経ものづくり 直言

跡継ぎは社員より子息
希望と勇気で背中を押す

 筆者の国内でのここ数年の最大のテーマは,中小企業,特に製造業の次期社長となる後継者の育成である。
 振り返るまでもなく,この20年ほど,日本の工場数は激減している。例えば,かつて日本最大の工場数を誇っていた東京都の場合,ピークの1983年には約10万を数えていたが急ピッチで減少,2003年には約5万になった。5万もの工場が消えたのである。その最大の理由の一つは,後継者がいないからとされている。
 識者の中には「良いところだけ残れば構わない」「必要があればまた生まれる」と気楽なことを言われる方も少なくない。しかし,まず脱落しているのは鍛造,鋳物,大物製缶,めっきなどの3K色の強い企業であり,これらが再び「必要になった」ときに生まれてくる場所は中国ではないか。空洞化はこのあたりから始まっているのである。

日経ものづくり 直言
一橋大学大学院教授
関 満博

1948年生まれ。専修大学助教授などを経て,1998年一橋大学教授。主な著書に『現場主義の知的生産法』など。中小企業論,地域経済論の第一人者。