事故は語る
クレーン車のセンサに不具合

ステアリング操作と逆に曲がる

 2004年8月7日,国道2号線を走行していたタダノ製クレーン車の運転手は,中央線に近づいていた車両の位置を修正するため,ステアリングを左に切った。しかし操作とは反対に,車両は右に旋回し,対向車線を走行していたワゴン車に衝突。ワゴン車に乗車していた6人のうち,1人が死亡し,5人が重軽傷を負った。

 過去には,運転手がアクセルとブレーキを踏み間違えて,人だかりに加速しながら突っ込むという事故もあったが,今回の事故では運転手がステアリング操作を間違えたわけではない。

 その後も別のクレーン車で,ステアリングを右に切ったにもかかわらず,車両が左に旋回し,歩道に乗り上げる事故が2004年10月13日に発生した。これを受け,タダノは同年12月10日に,クレーン車約1万5000台のリコールを届け出た。

 車両がステアリングを切った方向と逆に旋回した原因は,クレーンを車両後方に向けて作業する際に必要な「逆ステアリング機能」が,通常走行中にもかかわらず作動したことにある。以下,不具合の発生したクレーン車と逆ステアリング機能について説明する。

 このクレーン車は運転室とクレーンが一体となったタイプで,クレーンを後方に向けて作業するときは運転室も車両後方を向く。ステアリング装置と各車輪は電気的に接続しているステア・バイ・ワイヤで,4WS(4 Wheel Stearing)での走行も可能だが,通常は前輪を操舵輪として使う。ステアリング装置に内蔵したモータでステアリング・ハンドルの回転角を読み取り,その回転角を電気信号に変換して車輪付近の油圧装置に伝達。この油圧装置を使って車輪を操舵することで,車両が左右に旋回する。