プリント配線基板の電源電圧や接地電圧の変動対策に追われる機器設計者が急増する中,電源系のシミュレーション技術が脚光を浴びている。デジタル・カメラやPDAなど数多くの機器の開発現場でこうしたシミュレーション技術の導入を始めているソニーが,静岡大学,静岡県立大学と共同で開発した3次元電磁界解析シミュレータ「BLESS」の詳細を明らかにする。開発に着手した2000年当時あった電磁界解析シミュレータでは,プリント配線基板の一部さえも実用的な時間で検証することが難しかった。そこでBLESSでは,パソコンを用いたクラスタ・システムの導入などにより,解析規模の拡大と解析速度の向上を図った。製品への適用事例や現状の課題を交えながら,今後の技術的な方向性を解説する。(大石 基之=本誌)

 高性能なエレクトロニクス機器のプリント配線基板の設計において,電源系の電磁雑音はLSIの誤動作を引き起こす可能性があるだけでなく,信号品質の低下やEMI(electro-magnetic interference)を引き起こす深刻な問題となっている。このほか,信号配線における特性インピーダンスの不整合がEMIの原因となったり,電源層や接地層を縦断する配線経路中のビアが電源雑音を誘発したりする場合もある。

 このように,機器内部の電磁雑音はさまざまな現象に起因して発生し,しかも相互に関連する。このため,特定の現象のみに対策を施しても,機器全体の性能向上を図ることは難しい。各種の電磁雑音を設計の早期段階で正確に見積もり,設計上のリスクを低減することが,高性能かつ高機能の機器開発には不可欠となる。中でも,デジタル・カメラなどの小型機器の設計現場では,機能が増えるにつれ,デジタル回路からの雑音がアナログ回路に干渉して画像が乱れるといった現象が深刻になりつつある。

 こうした複数の要因が絡み合って起こる現象の解析には,一般的にシミュレーション技術が有効である。設計段階で回路の振る舞いを予測できるためだ。ところが電源や接地の変動による電磁雑音については,電源や接地の電圧が変動せず,一定のものとして扱う既存の伝送線路シミュレータで現象を正確に解明することは難しかった注1)。本来は問題がないはずの信号に雑音が乗ったり,予測していなかったリンギングが信号波形に見られたりして,その原因究明に膨大な時間がかかるといった問題が避けられなかった。
 このような影響をシミュレーションで確認しようとすると,解析速度が遅いことから,1枚のプリント配線基板を解析するのに,数日~数週間もの期間を必要としていたことも既存の電磁界解析シミュレータが抱える大きな問題だった。