日本の「現場力」の低下が懸念されています。「儲かる工場にするための現場力再入門」では、ものづくりの強さの源泉ともいうべき現場力を再び取り戻すにはどうすればよいかについて、数多くの製造現場の改革を手掛けてきたベテランコンサルタントが解説します。

経営目標達成の基本中の基本は5S

 日本の製造業は、製造現場の人員が急激に減少し、強さの源泉とも言うべきものづくりの「現場力」の弱体化の危機にひんしている。国内市場の縮小や、新市場を求めて工場を海外にシフトさせたことが主な要因だ。実際、リーマン・ショック前の2007年までは1170万人前後あった日本の製造業の就業者数は、2012年12月末で998万人とついに1000万人を割った(図1)。実に5 年で15%もの減少だ。

 ただし、工場の海外シフトが加速する中でも、日本の工場は海外工場の指導拠点としてまだまだ重責を担う立場にある。つまり、日本の現場力の低下は、そのまま海外拠点の競争力の低下につながり、激しいグローバル競争を生き残る上で極めて大きな問題なのだ。

 例えば、ある消費財メーカーの海外生産子会社では、本社から派遣された日本人が工場運営を一手に引き受けていたが、日々増え続ける出荷にひたすら追われる状態だった。当初は問題にならなかったが、やがて、利益が上がらない、品質問題が増える、納期遅れが増加するなど、問題が雪だるま式に増えていった。

 遅まきながら事態に気付いた日本の本社が調べてみると、現場はものであふれ、生産性、品質、安全も確保できない状態になっていた。加えて、その日の計画も進捗も全く把握できておらず、出荷に追われて生産を続けているだけの疲弊した職場になっていたのである。

現場力の6つの要素

 そもそも「現場力」とは何だろうか。筆者らは、それを「経営成果を目指し、あるべき姿の実現に向けて自立的に問題を解決できる力」と定義している。これは、現場が経営の目指すべき姿・目標を踏まえ、自ら問題に気付き、自ら改善活動を推し進めて経営成果に結び付けられることを意味する。

 もう少し細かくみてみよう。現場力の根底にあるのは、ものづくりのベースとも言うべき現場の5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)である。この基盤が出来て初めて、安心して働くための「安全」や、製品力の根幹を成す「品質」を確保できる。

 5Sを実践し、安全・品質を確保することは、誰もが決められたことを決められた時間と手順で処理できる体制を作る基礎となる。つまり、「標準作業」を着実に実行できる体制である。

 
〔以下、日経ものづくり2014年1月号に掲載〕

図1●日本の製造業就業者数の推移(毎年12月時点)
2008年までは1100万人をキープしていたが、リーマンショックで大きく減少。その後も減り続け2012年には998万人と、1000万の大台を切った。総務省の労働力調査から。
[画像のクリックで拡大表示]

古谷賢一(ふるたに・けんいち)
ジェムコ日本経営 本部長コンサルタント
大手鉄鋼メーカーで品質保証責任者や海外拠点のマネジメントなどを経験後、ジェムコ日本経営(本社東京)に入社。製造改善や経営改革を多く手掛ける。製造現場に密着したきめ細かい改善実践指導に定評があり、海外拠点(タイ、マレーシア、フィリピンなど)の指導経験も多い。