【フリクション】パイロット(ボールペン×消しゴム)
「書いて、消して、また書ける」ペン
突破口はフランスの小学生
パイロットの筆記用具「フリクション」シリーズは、単なるヒットを超えたお化け商品である(図1)。筆記用具は、年間1000万本売れれば大ヒットといわれるが、同シリーズは発売した2006年に1500万本、2012年には2億2000万本が売れた(図2)。しかも、今なお販売本数が伸びており、2013年の販売本数は前年を上回る見込みだ。販売地域も欧州や日本、北米、アジアなど世界各地に広がっている。
同シリーズの最大の価値は、「書いて、消して、また書けること」(同社)。代表的な製品であるノック式ボールペンでは後端部に半透明なゴムが付いており、書き損じた場合は、ペンを上下さかさまに持ち替え、そのゴムでこすれば簡単に消すことができる。しかも鉛筆書きを消しゴムで消すのとは異なり、消しかすが全く出ない。これまでのボールペンとの違いは明らかだ。
ところが商品化の検討段階では、この違いが利用者の購買につながるほどのウリになるかどうかの見極めがつかず、商品化はすんなりとは決まらなかった。
売れるほどの価値か?
パイロットが消せるボールペンの開発に本格的に取り組み始めたのは2001年のこと*1。2002年にインクの変色温度を制御する技術でブレークスルーがあり、消せるボールペンの商品化が視野に入ってきた。ただし、消せるという機能の価値に対しては同社内でも見方が分かれていた。
1つは、かなりの規模で新しい市場をつくれるとする見方だ。日本には、もともと筆記を消して書き直す習慣がある*2。小学生から大学生まで標準的な筆記用具は鉛筆やシャーペン。書き損じは、消しゴムで消して修正するのが一般的である。このため、通常の筆記用具としてボールペンを使う社会人も、消せるボールペンがあれば、「かなりの人が使うはず」(同社)というわけだ。
もう1つの見方はやや懐疑的なもの。消す必要があるのならシャーペンを使えばよい。実際に、これまで消せる筆記用具がいくつか商品化されたが、定着するまでには至らなかった。消せることに対するニーズはさほど強くはないのではないか、との見方である。
〔以下、日経ものづくり2014年1月号に掲載〕
*1 色が変わったり消せたりするインクの開発は、筆記用具以外の用途向けに1975年から進めていた。
*2 例えば、米国では修正部分を書き直さずに線を引いたり塗りつぶしたりするのが普通で、消して書き直すことは少ない。
【HYGIA(ハイジア)】ライオン(洗剤×抗菌)
衣類の抗菌力アップで安心生活
消費者の行動をじっと観察
ライオンが2012年7月に発売した洗濯用液体洗剤「トップHYGIA」は、「洗うたび、衣類が菌に強くなる」というキャッチフレーズで大きく売り上げを伸ばした製品だ(図1)。同社の濃縮液体洗剤の売上高が対前年比で5割増しになる原動力となった*1。
衣類から汚れを落とすという洗剤本来の直接的な目的に、衣類の菌が増殖しにくくなるという予防的な機能を追加した。この新しい価値は、衣類をきれいに保ちたい、というユーザーの衣類に対する本質的なニーズを捉えたものだった。ただし、そこに至るのは容易ではなかった。
3本目の柱を模索
HYGIAの開発がスタートしたのは2010年1月。当時、洗濯用洗剤の付加価値として重視されていたのは、洗浄力と仕上がり(香りや柔軟性など)の2つだった(p.40の別掲記事参照)。ライオンは前者を「清潔・爽快」、後者を「エンジョイ・ハッピー」というキーワードで表現している。
新商品を開発するに当たって、これら2つのニーズに向けた競争力を高めるだけではなく、「第3の付加価値があるのではないか、という考えからプロジェクトがスタートした」(同社ヘルス&ホームケア事業本部ファブリックケア事業部副主任部員の千葉瑞栄氏)。
候補として挙がっていたのが「衛生・安心」というキーワードだ。当時は、流行性ウイルスが大きな社会問題となり、マスクやハンドソープ、空気清浄機の売り上げが伸びるなど、消費者の衛生意識が高まっていたからである。
では、この新しいニーズとは具体的にどのようなものなのか、どのような機能を洗剤に付加すればそのニーズを満たすことができるのかは当時明確ではなかった。そこで、同社が着目したのが、ユーザーの通常の生活の中から潜在ニーズをあぶり出す「行動観察」である。
〔以下、日経ものづくり2014年1月号に掲載〕
*1 2012年12月5日付の日経MJより。