製造業には今、何を造るかが問われている。その「解」を見つけるには、自分の業界だけで閉じるのではなく、さまざまな業種も参考にしたいところだ。本特集では、7つの独創的な商品を題材に、ヒットの本質を探った。(特別取材班)

インタビュー:小林三郎氏(元・ホンダ経営企画部長)

自社技術だけを見てもダメだ
異分野のヒット商品に学べ

 本誌の連載「ホンダ イノベーション魂!2」でお馴染みの小林三郎氏はエアバッグを開発し、エアバッグ搭載のホンダ車を大ヒットさせた立役者。その小林氏に、ヒットの本質をどう見極めるかを聞く。

 皆さんは「マルちゃん正麺*1」を食べたことがあるだろうか。俺はすぐに食べたよ。うまかった。最近はうどんも発売されていて、こちらもかなりいける。

 異なる分野のヒット商品に学び、自社の新商品や新サービスの開発に生かすことはとても大事だ。ただ、それは簡単にはできない。「ものの見方と考え方」を身に付ける必要があるからだ。その出発点が、「見てみること」、そして「自分で試してみること」である。おやじ(ホンダ創業者の本田宗一郎のこと)が猛烈に怒ったのはこの2つを軽視したときだった。「見もせんで、やりもせんで何が分かる」と、真っ赤になって怒鳴っていた。

 インスタントラーメンが皆さんの仕事に直接関係することはまずないだろう。しかし、これだけ話題になっている商品なのだから、食べてみないと。ヒットした商品はすぐに実物を見たり使ってみたりした方がいい。そんな好奇心がヒットの本質をつかむための第一歩だからだ。

 この話をすると「なかなか時間が取れなくて」と言い訳する人が必ずいる。しかし、忙しいのはみんな同じだ。そこを何とかして時間をつくって、体験を重ねないといけない。こうした体験は、必ず皆さんの蓄積になって、ヒット商品づくりを後押ししてくれる。

得意技術から離れる

 斬新な製品を生み出そうとするときは、自分たちの事業分野や技術分野からいったん離れてアイデアを膨らます必要がある。しかし、これがなかなかできない。特に技術者はダメだ。どうしても自分の得意な技術領域で考えてしまう。「自分たちの技術の強みは何か。逆に弱みは?」「強みを生かすにはどうすればよいか」という思考プロセスだ。

 こうしたアプローチは経験がものを言うので、ベテラン技術者が議論をリードする。若手が新しいことを提案しても、「それ、ダメだよ。昔やったことがある」などと言われて即座に却下だ。その結果、出てくる商品は改良品ばかり。いつまでたっても斬新な商品が出てこない。

 ここでいう斬新な商品とは、新しい価値を生み出す商品のことだ。注意が必要なのは、新しい価値とはあくまでもお客様にとって、ということである。自分たちの事業分野や得意技術とは何の関係もない。だから、まずは自分たちの事業や技術から離れ、徹底して顧客視点で考える必要がある。新しい価値を見いだしたら、そこで初めて自分たちの事業分野や得意技術に引き寄せて、何ができるかを考えるのだ。

〔以下、日経ものづくり2014年1月号に掲載〕

*1 マルちゃん正麺 東洋水産が2011年11月に発売した袋入りインスタントラーメン。生麺風の食感などが評判となり大ヒットした。うどんは2013年10月の発売。

小林三郎(こばやし・さぶろう)
中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授(元・ホンダ経営企画部長)
日本初のエアバッグの開発者。1971年本田技術研究所に入社。2000年にホンダの経営企画部長に就任。2005年12月に退職後、一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授を経て、2010年4月から現職。