2009年4月8日に東京都内で発生したエスカレータ事故。国土交通省は「製品や運用に問題なし」の判断を下したものの、新設された消費者庁の消費者安全調査委員会が「待った」を掛けた。同委員会は、再発防止のために3つの問題を検討すべきと指摘する。

 最初に、事故の概要を説明しよう。事故が起きたのは、東京都内にある商用ビルの2階と中2階を接続するエスカレータである(図1)。2009年4月8日21時44分頃、当時45歳の男性はビル2階の飲食店で飲食後、飲食店を背景に同僚と記念撮影を行い、後片付けをする同僚を見ながらエスカレータを背にして後ろ向きに歩き出した。

 その結果、下降運転中のエスカレータのハンドレール(ステップと連動している手すり)と男性の臀部が接触し、男性はハンドレールに乗り上げる格好になった。そして、ハンドレールと転落防止柵の間に左足が挟まれた後、男性は約9m下の1階床面に落下。病院に搬送されたが、翌日0時26分に死亡した。

改善の余地あり

 この事故については、国土交通省の社会資本整備審議会昇降機等事故調査部会(以下、国交省調査部会)が調査を実施し、2012年4月に「構造や維持保全、運行管理に起因した事故と判断する理由がなく、調査報告をまとめる対象ではない」という内容の「調査概要」を発表した。メーカーやビル事業者に問題はなかったと判断された形だ。

〔以下,日経ものづくり2013年12月号に掲載〕

図1●事故が起きたエスカレータの構造
図1●事故が起きたエスカレータの構造
被害者は、2階でハンドレールに乗り上げ、転落防止柵とハンドレールの隙間に左足を挟まれた後、1階の床面に転落した。消費者安全調査委員会による推測図。