合金の進化

不燃・耐熱合金 熊本大学/不二ライトメタル

融点超えても燃えずに沸騰
鉄道・航空機での利用に期待

 発火温度が低く燃えやすいというMgの負の印象を払拭する新しい合金として注目されているのが、熊本大学大学院自然科学研究科・工学部教授の河村能人氏が開発した「KUMADAI不燃Mg合金」(不燃Mg合金)だ。高い難燃性が求められる航空機や鉄道車両などの構造材に使えるのではないかと、大きな期待が寄せられている。

強さも超々ジュラルミン並み

 不燃Mg合金は、溶解炉から大気中に取り出しても、通常のMg合金のように炎を上げない。バーナーで炙っても火炎は出ず、純Mgの融点(1091℃)を超えても燃えずに沸騰する〔図1(a)〕。つまり、「全く燃えない」(河村氏)のだ。「難燃」や「耐熱」ではなく「不燃」の名前の由来はそこにある。燃えないため、溶解や鋳造時の取り扱いも容易になる。

 常温での強度も高く、引っ張り降伏強さは約460MPaと、超々ジュラルミン(A7075)並みを誇る〔図1(b)〕。このように、不燃Mg合金は燃えないだけではなく、機械的強度にも優れる。航空機や鉄道車両のメーカーが興味を示しているのはそのためだ。

 こうした優れた特性を持ちながら、レアメタルを使っていない。組成は明らかにしていないが、添加元素は安価な汎用金属だけという。

 後述する、同合金に先駆けて河村氏が開発した「KUMADAI耐熱Mg合金」(耐熱Mg合金)では、添加元素のレアメタル、イットリウム(Y)がコストアップ要因として懸念されているが、不燃Mg合金では組成的に低コスト化が期待できる。しかも、不燃のため切り粉に着火する心配がなく、容易に切削加工できる。難点は高温強度が低いことである。

 熊本大学は、不燃Mg合金と耐熱Mg合金の開発と特性評価、不燃/難燃化のメカニズム解明、そして本格実用化を目指して、2011年に構内に「熊本大学先進マグネシウム国際研究センター」(MRC)を設立し、開発を加速させている。400kgの溶解炉や580tの熱間押し出し装置の他、成分や機械的強度などを評価できる分析装置などを備えている。

高性能の急冷、製造容易な鋳造

 不燃Mg合金には、開発の基礎となった合金がある。それが、河村氏が2000年頃から開発を続けてきた上述の「KUMADAI耐熱Mg合金」である。2at%程度のYと1~2at%の亜鉛(Zn)を加えた合金で、発火温度は最高940℃と、一般的なMg合金に比べて300℃以上も高い。加えて、耐食性や強度にも優れていることから、不燃Mg合金とともに今後の実用化に期待が集まっている。

〔以下、日経ものづくり2013年12月号に掲載〕

図1●KUMADAI不燃Mg合金の特性
バーナーで炙って1000℃以上に加熱しても発火せず、やがて沸騰する(a)。降伏強さにも優れており、市販のMg合金の2倍を優に超える(b)。 写真:サイエンス チャンネル
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Mg-Li合金 カサタニ

割れやしわなくプレスが可能に
超軽量材料として民需に名乗り

 875gという驚異的な軽さで話題となったNECPCのノートパソコン「Lavie Z」。その軽量化に貢献した材料が、世界で初めて商業製品で実用化されたMg-Li合金だ*1。Lavie Zの最新モデルではMg-Li合金製ボトムケースをさらに薄くし、一層の軽量化を図っている(図)

 同合金はAZ91と比べると縦弾性係数は同等以上で、密度は1.36g/cm3と約25%も軽い。実は、見い出されたのは1960年代だが、加工が難しく商業利用されていなかった。しかし、ついにMg- Li合金の量産製品への適用に成功したことで、今後の利用拡大が注目されている。

柔らかさと析出物がネックに

 NECPCとともに、この聞き慣れない合金の実用化に挑んだのが、カサタニ(本社大阪市)である。Mg-Li合金の加工が難しいのは柔らかいからだ。展伸材として使われているAZ31に比べて曲げや絞りは比較的容易だが、柔らかい分だけしわや亀裂が発生しやすい。

 

〔以下、日経ものづくり2013年12月号に掲載〕

図●NECPCのLevie ZのMg-Li合金製ボトムケース
写真は2013年10月に発表した新モデルのもの。板厚を前モデルの0.5mmから0.4mmに薄肉化した。

*1 軍需や宇宙産業での採用実績はある。