国内最新の完成車工場であるホンダの埼玉製作所寄居工場(埼玉県・寄居町)が本格稼働した(図1)。2013年7月に操業を開始し、同年9月から2直体制のフル生産に移行。同年11月7日には本格稼働を契機に式典を開き、生産ラインを報道陣に公開した。目下、新型「フィット」を1日当たり1050台生産している。既にタクトタイムは50秒を切るほど速く、今後は生産台数を増やしつつ、さらにタクトタイムの短縮を目指すという。

 「日本で最後の完成車工場」。自動車業界には、寄居工場をこう形容する人もいる。それもそのはず。国内の自動車販売は良くて横ばい、現実には減少傾向にあるからだ。「もう、日本に新しい完成車工場など要らない」というのが、ホンダ以外の日本の自動車メーカーの本音ではないか。新工場を建設するための巨額の投資金額を、縮小に向かう日本市場だけで回収するのは至難の業だろう。

 実は、寄居工場責任者の河野丈洋氏も「国内生産のためだけなら、この工場は必要なかった」と言う。ホンダは寄居工場の稼働により、同じく完成車工場である同製作所狭山工場に2本あった生産ラインのうち、1本を止めた。これを止めずに使い続ければ、生産台数的には寄居工場は不要のはずだ。それなのに、なぜ、ホンダは新工場を建てたのか。

強い生産技術を生み出すため

 ホンダ代表取締役社長の伊東孝紳氏は、寄居工場を「生産技術の進化を担う(マザー)工場」と明快に答える。ホンダは、2016年度に世界の自動車販売台数を2012年度の400万台から600万台に増やす強気の計画を持つ。そのためには、競争力の高い海外工場が必要だ。そこに導入する優れた生産技術を開発するために、ホンダは寄居工場を造ったのである。従って、寄居工場で生み出した生産技術を、同社は今後立ち上がるメキシコやタイ、中国、ブラジルといった海外の新工場にも水平展開していく考えだ。

 新しい生産技術の最大の狙いは、コスト競争力の大幅な引き上げである。「ホンダが造る(寄居工場の内製)部分の製造コストを3割くらい下げる」(河野氏)ことを目指した。そのために、工程削減や工程集約、工程短縮を徹底して進めた「コンパクトライン」を導入。車種ごとの専用設備や専用治具を廃止し、ロボットを使うことで多品種に対応させた。組立工程では、作業者の負荷を軽減する自動化設備を多く導入している点が目立つ。実際、寄居工場の組立工程は「オールホンダで最高の自動化率」(同氏)を誇っている。ホンダが技術の粋を集めて開発した生産技術の中でも、特に技術的に優れたものを紹介していこう。