電気二重層キャパシタの速い充放電特性を損なうことなく、電気容量を大きく高められる新しい電極材を豊橋技術科学大学が開発した。「カーボンナノバルーン」と呼ぶもので、量産品で使う活性炭に比べて電気容量を5割増やせる。さらに次世代材料として最近研究が進むカーボンナノチューブに比べても電気容量を高められそうだ。 (本誌)

 豊橋技術科学大学は、電気二重層キャパシタ(EDLC)の電気容量を5割超高めることに成功した。カーボンナノバルーンと呼ぶ新しい炭素材料を電極に使って実現する(図1)。同材料は「バルーン」と名が付くように、風船のような中空の多面体構造のもの。現在、東海カーボンや湘南合成樹脂製作所と実用化を目指して研究を進めている。

 最近、EDLCを採用した車両の発売が相次いだ。マツダが2012年に発売したセダン「アテンザ」の減速エネルギ回生装置にEDLCを搭載。ホンダは2013年9月に発売した小型車「フィット」のアイドリングストップ装置に採用した。

 EDLCの特徴は、イオンの物理的な吸着でエネルギを貯めるので、化学反応を使う2次電池と比べて充放電速度が格段に速いことである。エネルギ密度は2次電池と比べて低いが、出力密度は高くなる(図2)。アテンザの場合、EDLCを使うことで減速時の回生エネルギを効率的に蓄え、燃費性能を約10%以上高めている。

 アテンザやフィットに搭載するEDLCの電極には活性炭を使う。EDLCの性能には電極の表面積と電気抵抗率が大きく関係し、活性炭の表面積は大きくて多くの電荷を蓄えやすいためである。ただし電荷の出し入れしにくさを示す電気抵抗率は高い。ブレーキをゆっくりと踏む場面では電荷を多く蓄えやすいが、少し強くブレーキをかけるときのように電荷を速く出し入れしたい場面で蓄電量が大きく減ってしまう。

 筆者らが提案するナノバルーンの電気抵抗率は活性炭の約半分と低く、ブレーキを少し強くかける場面でも効率よく蓄電できる。現時点の実験結果では、急ブレーキに相当する電圧が100mV/sで変化するときの電気容量は1g当たり28Fと、活性炭に比べて5割以上高くできた。

 ナノバルーンを使うと、EDLC用電極の次世代材料として開発が進むカーボンナノチューブを使ったEDLCに比べても性能を高められるだろう。ナノバルーンの電気抵抗率はナノチューブと同等だが、質量当たりの表面積を10倍以上大きくできるためである。

以下、『日経Automotive Technology』2014年1月号に掲載
図1 新しいカーボン材でEDLCを作る
図1 新しいカーボン材でEDLCを作る
(a)カーボンナノバルーンの結晶構造。直径が数十nmで、風船のような中空の多面体構造である。(b)バインダを混ぜてプレスし、EDLCの電極にした様子。直径が20mmで厚さは1mm。
図2 EDLCの特徴
(a)イオンを出し入れして充放電する。(b)次世代EDLCの目指す領域。
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