東京製鉄は、くず鉄を原料とした熱延鋼板を試作した。引張強さ980MPa級という、自動車の内板に高張力鋼板として使える水準の強さである。物質・材料研究機構(NIMS)などが進めた「超鉄鋼プロジェクト」の研究成果である微細結晶粒を造る技術を、ベイナイト組織に応用して達成した。

 鋼の原料であるFe(鉄)は、普通は鉄鉱石を掘って手に入れる。製品として使い終えたくず鉄を原料にすることもできるが、現在、くず鉄から造った鋼の用途は建築物の鉄筋などが中心で、薄板など付加価値の高い鉄鋼には使われていない。自動車用の薄板に使おうとすると、質がまだ足りないというのが常識だからだ。

 東京製鉄はくず鉄を原料とし、引張強さ980MPa級の熱間圧延鋼板を試作した。物質・材料研究機構が主体となって進めた「超鉄鋼プロジェクト」の微細結晶粒の考え方を取り入れた。

 試作した鋼板の品質を検証することで、くず鉄を使って自動車用の高強度鋼材を造れることを明らかにした。くず鉄を循環させ、自動車用鋼板のコストを下げられる可能性がある。

 始め、試作品の目標仕様は「強さと伸びの積でDP(Dual Phase)鋼と同等以上」だった。これは、自動車会社が現在使っているDP鋼と代替することを想定するときに分かりやすいためだった。DP鋼は大量に使われており、衝突データも十分な実績がある。その後、引張強さをもっと大きくしても製造の難しさはそれほど変わらないことが分かり、目標を“上方修正”した。具体的には引張強さが980MPa、全伸びが16%以上である。

 現在使われている鋼をプロットすると分かるが、引張強さと伸びはトレードオフの関係にあり、両立はしにくい。今回の試作結果は目標を達成し、DP鋼より少し引張強さが大きく、マルテンサイト鋼より伸びが大きいものができた(図1)。

成分は普通鋼に近い

 これまでの高張力鋼はTi(チタン)などの合金元素を入れることによって強さを上げている。こうした合金元素は高価で、将来は供給の不安もある。

 超鉄鋼プロジェクトでは成分は合金物質としてC(炭素)のほかにはSi(ケイ素)、Mn(マンガン)程度しか含まない。普通に造れば490MPa程度の強さしか出ない組成の鋼である。

 その代わり、結晶粒(フェライト)を微細にした。結晶粒の大きさを10μmから1μmに小さくするだけで強さを2倍に上げられる。今の生産方法で造ると、結晶粒の大きさは10μmまでしか小さくならない。特殊な合金元素を使っても5μmにするのが精一杯だ。

以下、『日経Automotive Technology』2014年1月号に掲載
図1 各種鋼板の引張強さ-全伸びの関係
自動車用高強度鋼板の現状と今後の期待、今回の試作結果をプロットした。
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