ドイツVolkswagen社はモジュールアーキテクチャの「MQB(横置きエンジン車用モジュールマトリックス)」を7代目「ゴルフ」や同社グループのドイツAudi社の新型「A3」に採用し始めた。Volkswagen社がMQBを開発した狙いを解説する。(ローランド・ベルガー シニアパートナー 長島 聡)

 Volkswagen社がモジュールアーキテクチャを採用した理由は、ユーザーの嗜好の多様化によるボディタイプの増加、環境規制に対応するための電動化などパワートレーンの多様化、運転支援やつながる車などの新機能の搭載─―といった、車両開発の工数の増加要因に、限られたリソースで効率的に対処するためだ。

 同アーキテクチャのメリットは、大きく分けて四つに分類できる。まず開発においては、あらかじめ用意しておいたモジュールを“レゴブロック”のように組み合わせることが、開発工数の削減、開発期間の短縮につながる。またモジュールの組み合わせを変えて、様々なニーズに合わせたクルマを開発できる。

 生産では、セグメントの枠を越えた混流生産が可能になり、ライン当たりのコストも低減できる。ライン当たりの生産効率が上がるため、より高価な設備も導入が可能。生産ラインの柔軟性が高まることで、地域情勢や為替相場の変化に応じて、生産モデルを切り替えることも容易になる。

 調達では、MQBを使う生産台数が少なくとも数百万台規模に達するとみられることから、規模の経済性を生かした部品コストの低減が見込める。最後に品質では、複数車種に使うことを前提として各モジュールを入念に設計するため、不具合の発生率を下げられるとみている。

 同社がMQBを導入する以前から、モジュール化の概念は存在する。しかし、これまでは物理的に隣り合う部品をモジュールにまとめて、構造の単純化、部品点数の削減、モジュール単位での外注、モデル間での共用などを狙う例が多かった。

 一方、今回のモジュールアーキテクチャは、こうしたモジュール単位の最適化とは異なる。あらかじめ目指すべきクルマの姿を定義し、それを実現できるモジュールを何種類か開発しておくことで、派生車種をモジュールの組み合わせで簡単に実現できることを目指している。

以下、『日経Automotive Technology』2014年1月号に掲載