車両と車両の間で無線の信号をやり取りする車車間通信。専用の通信機が必要で、これまで普及の道筋が見えなかった。ホンダと米Qualcomm社はそれぞれ、スマートフォンを使ってこれまでの課題を解決することを提案した。

 車車間通信を使うと、見通しの悪い交差点などでお互いの存在を伝えられる利点がある。ただその性質上、自車だけではなく他車にも通信機がなければ成立しない。ほとんどの車両に通信機が載って初めて真価を発揮する。逆にいえば、普及の初期段階では通信相手が少ないので効果を実感しにくく、初期段階では通信機の搭載費用をユーザーは払わないだろう。では誰が負担するのか。長年議論されてきた問題だが、誰も答えを出せていない。

 2013年10月、ホンダと携帯端末向けプロセサ大手の米Qualcomm社がそれぞれ、スマートフォンを活用してこれまでの問題を解決しようとする技術を提案した。ともにユーザーが車内に持ち込んだスマートフォンの通信機能を使って車車間通信を実現することを狙う。既にスマートフォンを持つユーザーならば追加コストは基本的にゼロ。その上、簡単に持ち運べるので新車だけではなく既存の車両にも車車間通信を適用しやすくなる。スマートフォンの著しい普及の度合いを考えると、負担の議論そのものが無用になるだろう。

100m先の車両と通信

 同じ時期に似た考えに基づく提案をした2社だが、具体的なアプローチは異なる。ホンダはスマートフォンに搭載する無線LANを車車間通信に転用することを提案する。一方、Qualcomm社は欧米が自動車専用に開発してきた5.9GHz帯の通信技術「DSRC(Dedicated Short Range Communication)」をスマートフォンに搭載することを狙う。

 ホンダは2013年10月に千葉県で開催されたエレクトロニクス技術の展示会「CEATEC JAPAN 2013」で今回の技術を提案した(図1)。既存のスマートフォンやタブレット端末に搭載する無線LANモジュールをそのまま使えるのが特徴で、1~2年以内の実用化を目指している。

 自動車専用のDSRCはブレーキ制御に使うのが前提で、通信の信頼性が高い利点がある一方、高価で専用の通信モジュールが必要になる。ホンダが提案する技術は、開発中のアプリケーションをスマートフォンにインストールするだけで車車間通信に使えるものだ。

以下、『日経Automotive Technology』2014年1月号に掲載
図1 スマホの無線LANで車車間通信
図1 スマホの無線LANで車車間通信
ホンダが提案する。(a)開発中のアプリを搭載したタブレット端末同士の間を無線LANで通信。(b)模型で実用化したときの場面をアピール。交差点で前後の車両の間で「休憩しない?」といった情報を伝える様子。