カーナビに使われる衛星測位システムは、米国の「GPS(Global Positioning System)」に加えて、ロシアや中国、インドも新規衛星を打ち上げており、複数のシステムの運用が始まっている。米国ナッシュビルで9月に開かれた衛星測位システムのカンファレンス「ION GNSS」(図1)でこれらの自動車への影響を探った。

 米国は1960年代から軍事用として衛星測位システムの技術開発を始め、80年代には陸海空軍で実際に活用し始めた。その軍事技術が転機を迎えたのが93年である。クリントン政権下で、GPSの民間使用法案が可決され、航空機やクルマのカー・ナビゲーション・システムに利用できるようになった。

 最近は、米国のGPS以外にも衛星測位システムが実用化されており、これらの総称は「GNSS(Global Navigation Satellite System)」と呼ばれる。現在、世界で運用が始まっているGNSSは6種類。GPSに加え、ロシアの「GLONASS(Globalnaya Navigatsionnaya Sputnikovaya Sistema)」、中国の「BDS(BeiDou Navigation Satellite System)」、欧州の「Galileo」、インドの「IRNSS(Indian Regional Navigational Satellite System)」、日本で「みちびき」で知られる準天頂衛星の「QZSS(Quasi-Zenith Satellite System)」――である(表)。

 GNSSでは、受信機と最低4基の通信衛星との距離から、3次元での位置を計算する。一つの衛星は位置座標とその送信時刻を発信し、受信機はそのデータを一定時間後に受信する。衛星と受信機の距離は、この遅れに光の速度(約30万km/s)をかけたものとなる。1基の衛星だけではその衛星との距離しか分からないが、3基を使うと3次元的な位置が分かり、さらにもう1基の情報を使って受信機の時計の誤差を補正する。この結果、民間利用では10mの精度で位置を求められる。

 GNSSは本来が軍事用の技術で、暗号コードを用いることで軍専用の高精度な位置情報を入手できる。このため、ロシアや中国は国防戦略上、米国のGPSに頼らない独自システムの開発を目指した。一方、民間が利用する精度の低い位置情報については、公開する方針を採っている。

第3世代GPSを2015年に打ち上げ

 DOD(米国防総省)と米空軍の発表によると、2013年9月現在、高度約2万200kmの軌道上にあるGPSの総数は35基である。ほとんどが「GPSII」と呼ばれる第2世代のものだ。

 2015年の早い時点で、次世代衛星となる「GPSIII」の打ち上げを始める。その特徴は、これまでのL1帯(1575.42MHz)の信号に加え、L2帯(1227.6MHz)の周波数を送信して測位精度を上げられること。また、送信信号の解読に暗号を用いてより精度の高い測位ができる軍事用では、妨害電波に強い信号を採用する。

 今回のカンファレンスでDODは「GPSはあくまでも軍事目的だが、民間用途にも対応可能」と主張していた。実際、併設した展示会場では衛星事業大手の米Lockheed Martin社や同Boeing社が、陸・海・空軍、海兵隊向けを意識した展示を見せていた。

以下、『日経Automotive Technology』2014年1月号に掲載
図1 米国ナッシュビルで開催された衛星測位システムのカンファレンス「ION GNSS」
図1 米国ナッシュビルで開催された衛星測位システムのカンファレンス「ION GNSS」
展示会が併設され、受信機メーカーなど約90社が出展した。
表 世界各国の衛星測位システム
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