「ドーン」。2011年5月27日21時55分頃、北海道旅客鉄道(JR北海道)石勝線を時速約110kmで走っていた6両編成の札幌行き「スーパーおおぞら14号」を、突き上げるような衝撃が襲った。直後に「ドン、ドン」と異音がしたため、異常を感じた車掌が運転士に停車を要請。トンネル内で緊急停車した同号からは間もなく煙が上がった。

 ディーゼルエンジンを動力源とするスーパーおおぞら14号が停車したのは、占冠(しむかっぷ)駅と新夕張駅の間にある「第1ニニウトンネル」(全長685m)の中。この地域は、夕張山地南部の山中で、多くのトンネルが連続しており携帯電話も通じにくい。停車位置は、先頭車両がトンネル入り口から200mほど入ったところだった。

 停車直後、運転室のモニタには進行方向を切り替える逆転機の不調など、多数の機器の異常が表示された。トンネル内でトラブルがあった場合はトンネル外まで移動するのが原則である。運転士は力行*1を試みたが、列車は動かなかった。その時点で既に、後方の車両からの発煙が確認されていたことから、運転士は無線で指令部に連絡し、指示に従ってエンジンを停止した。このため客室内は真っ暗となった。

 一方、6両目車両下部から発煙を認めた車掌らは、乗客に対し進行方向前寄りの1~3両目への移動を促した。その後、車内に煙が充満し始めたため、車掌らは降車してトンネルの進行方向出口へ向かうよう避難誘導を開始した。ただし、その時点で一部の乗客は既に自主的に降車して避難を始めていたという。結局、乗客248人と乗員4人は、煙の立ちこめる暗闇のトンネルの中を500m近く歩いて出口へ向かった。

 実は、停車時点で既に、6両目の台車付近から火の手が上がっていたのを乗客が確認している。避難後、火災は車両全体に延焼し、全6両が焼損した(図1)。幸い、死者や重傷者は出なかったものの、避難の際に煙を吸った、乗員1人を含む79人が咽頭炎や喉頭炎など呼吸器系の軽傷を負った。

4両目は脱線から復帰

 事故調査に当たった運輸安全委員会の報告書を基に、事故原因と脱線に至るプロセスをみてみよう1)

 ドーンという異音は、列車の脱線によるものだった。事故後の調査では、各車両に2台ずつある台車のうち、5両目の後方の台車(後台車)の第1軸(進行方向前方寄りの車軸)が脱線していた*2。5、6両目はディーゼルエンジン下面に打痕や擦過痕が多数あった他、両車両とも燃料タンクの下面に穴が開いて中は空になっていた。

 4両目の後台車の機器は、動力伝達装置の損壊や動力軸(推進軸)の曲損、減速機の打痕、一部部品の脱落など、多数の異常が認められた。加えて、第1軸、第2軸ともに車輪フランジに多数の傷があるなど、脱線した痕跡が認められた。レールやまくら木の痕跡から考えると、事故後に4両目が脱線していなかったのは、いったん脱線した車軸が復帰したものとみられている。具体的には、4両目の両車軸は列車の停車箇所の1kmほど手前でレールの左側に脱線したものの、800mほど進んだところにある分岐器(11イ分岐器)*3に差し掛かった際に、進行方向から手前に向かって左に分岐したレール(リード部)に押される形で復帰したのである。

 では、なぜ脱線したのか─―。事故直前の同年5月12日に行われた軌道変異検査では異常はなかった。つまり、レールは正常だった。

 

〔以下,日経ものづくり2013年11月号に掲載〕

図1●事故を起こして焼損した「スーパーおおぞら
14号」
図1●事故を起こして焼損した「スーパーおおぞら 14号」
写真は事故後にトンネルから出したときの様子。手前が火元となった最後尾の6両目である。写真:運輸安全委員会

*1 力行 鉄道などで動力を車輪に伝えて運転すること。

*2 台車1台に2つの車軸がある。

*3 分岐器 線路を分岐して列車の進路を選択的に変更するための機構。

1)運輸安全委員会,「鉄道事故調査報告書 北海道旅客鉄道株式会社 石勝線 清風山信号場構内 列車脱線事故」,2013年5月31日.