米国発の環境評価ツール「EPEAT」が日本の製造業に大きな影響を及ぼそうとしている。これまでPCやPC用モニタに限られていた適用対象が、複合機やテレビ、携帯電話機などに拡大しつつあるからだ。日本の製造業に対してどのような技術や体制が求められているのか、本誌2013年10月号でも取り上げたEPEATについて成立過程や運用に詳しい専門家に解説してもらう。

 最近、製造業のさまざまな業界から、「EPEAT」についての問い合わせを受けることが増えてきた。EPEATは、Electronic Products Environmental Assessment Tool(電気電子製品環境評価ツール)の略称で、米国を中心に世界各国の政府機関や公共団体が電気電子機器を購入する際のグリーン調達基準となっている。2006年に米国環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)による助成の下、メーカー/リサイクル業者/大学/政府系購入団体などが共同で開発した。現在は、米国オレゴン州の非営利団体であるGreen Electronics Council(GEC)が管理・運営に当たっている。

 EPEATは今後、日本の製造業に大きな影響を及ぼすだろう。本稿では、そのEPEATについて「適用対象製品の推移」「評価の特徴」「世界的な導入の動き」「適合へのプロセス」「これから求められる技術や体制」という5つの観点からひもといていく。

適用対象製品の推移

 EPEATにおける電気電子製品の評価は、米国の電気電子学会(IEEE:Institute of Electricaland Electronics Engineers)の規格に基づいて実施される。その規格は、IEEE 1680シリーズとして制定されており、2006年に「IEEE 1680」(EPEATの概要)と「IEEE 1680.1」〔PCとPC用モニタ(以下、PC/モニタ)に関する要求事項〕が発行された。

 これに伴い、同年からPC/モニタに対してEPEATが適用された。当初は、EPEAT適合を宣言するPC/モニタのメーカーは10社程度だった。しかし、現在はその数が約50社にまで増えており、EPEATは世界の主要なPC/モニタメーカーが参加するプログラムとして影響力が高まっている。日系メーカーとしては、ソニー/東芝/パナソニック/富士通/EIZO/NECディスプレイソリューションズなどが名を連ねる。

 長らく適用対象製品はPC/モニタに限定されていたが、2012年10月に「IEEE 1680.2」〔映像情報機器(複合機やプリンタなど)に関する要求事項〕と「IEEE 1680.3」(テレビに関する要求事項)が相次いで発行され、同年12月に適用が始まった。そのうち映像情報機器では、日本からキヤノン/京セラ/コニカミノルタ/セイコーエプソン/富士通/リコーなどがEPEATに参加している。一方、テレビでEPEAT適合を果たした日系メーカーは2013年9月時点では存在しない。

 適用対象製品の拡大で、最終製品はもちろん、部品や材料などの分野でもEPEATの影響を受けるメーカーが増えた。製造業のさまざまな業界でEPEATへの関心が急速に高まっているのは、このことが背景にある。

 加えて、2014年以降には携帯電話機と業務用サーバに関する規格が発行される予定だ。従来はIEEEが規格の制定・発行を担ってきたが、今後は米Underwriters Laboratory(UL)社や米NSF Internationalがその役割を継承し、携帯電話機についてはUL 社が、業務用サーバに関してはNSF Internationalが規格の制定を進めている。現時点でこれら以外の計画は発表されていないものの、適用対象製品がさらに増えるのは間違いないとみられる。