プロローグ

「ある意味でコピペのものづくり」

 マツダが2013年11月21日に発売する新型「アクセラ」の発表会。冒頭に登壇した同社代表取締役社長兼CEOの小飼雅道氏が強調したのは、2006年から進めてきた「モノ造り革新」の成果だった。

 2012年度(2012年4月~2013年3月期)の連結決算で、同社は5期ぶりの最終黒字化を果たした。その要因について、同氏は「(モノ造り革新をはじめとする)構造改革プランを地道に推進してきた成果によるものが大きい」と胸を張る。

〔以下、日経ものづくり2013年11月号に掲載〕

視点

擦り合わせの対極にあるコピペ
押さえるべき3つの条件

 モジュール化によって、製品開発の進め方が劇的に変わろうとしている。論より証拠。まずは、「モノ造り革新」とその柱である「一括企画」に基づいてクルマのモジュール化を推進しているマツダの事例を詳しく見てみよう1、2)

 同社商品本部主査の猿渡健一郎氏は、自身が主導した新型「アクセラ」の開発を「ある意味でコピペ(コピー・アンド・ペースト)のものづくり」と表現した。このコピペという言葉は、モジュール化後の製品開発の特徴を簡潔に言い表している。

標準モジュールに自信

 猿渡氏のいうコピペとは、一括企画の全車種への搭載を前提に標準モジュールを開発し、それを共通基盤として個別車種に展開する手法を指す。従来は、特定の車種に向けて開発したモジュールを別の車種に流用していた。つまり、一括企画以前ではモジュールを先行車種から後発車種に流用していたのに対し、一括企画では標準モジュールという純然たるコピー元があり、それを全方位に展開しているのである(図1)

 だが、コピペは日本の強みといわれてきた「擦り合わせ」や「造り込み」と対極にある概念といえる。文脈によっては否定的な意味に取られかねないコピペという表現を猿渡氏があえて用いた理由は、主に2つある。

 1つは、コピー元、すなわちエンジンや車両骨格といった標準モジュールに自信を持っていることだ。例えば、エンジンの開発で最も工数のかかる燃焼特性は「理想形」(同氏)が確立されており、排気量の異なるエンジンでも燃焼特性は共通化している。

 従来であれば、個別車種の要件に応じてエンジンの根幹である燃焼特性から造り込んでいた。だが、アクセラでは既存のパワートレーンはもちろん、新たに投入したパワートレーンも燃焼特性にほとんど手を入れていない。それは、車両骨格など他の標準モジュールでも同じだ。

 そういう点では、開発責任者としての自由度は一括企画以前の方が高かったと猿渡氏は語る。だが、自由度の高さは、裏を返せば何から何までゼロベースで開発しなければならないことを意味する。費用や時間をいくらでもかけられるならまだしも、現実には制約が多く、「なかなか思うようなものを造れない」(同氏)。開発効率でも品質でも標準モジュールをベースとするものづくりに軍配が上がるというわけである。

〔以下、日経ものづくり2013年11月号に掲載〕

図1●一括企画以前と一括企画の違い
図1●一括企画以前と一括企画の違い
一括企画以前は、特定の車種に向けて開発したモジュールを後発の車種に流用していた。一括企画では、全車種への搭載を前提にした標準モジュールを開発し、それを個別車種に展開していく。

1)高野,「あらゆる製品がモジュール化する」,『日経ものづくり』,2012年9月号,pp.30-55

2)同上,「マツダの開発・生産革新が加速、新型『アテンザ』で成果が明らかに」,同上,2013年1月号,pp.15-17.