2013年6月号から「関伸一の強い工場探訪記」をお届けしています。日本にあるさまざまな業種の工場を、工場長の経験もある筆者の関氏が訪問し、表面的な数字だけでは分からない優れた工場の強みや特徴など現場の生の姿をお伝えします。

1人完結セル生産で低コストと高付加価値を両立

 今回の訪問先は、制御盤を製造する三笠製作所(愛知県・扶桑町)の扶桑工場。扶桑町は愛知県の最北端に位置し、木曾川を渡ればすぐに岐阜県各務原市だ。愛知県はこの30数年間、製造品出荷額で2位の静岡県に倍以上の差をつけて日本一である。扶桑町に隣接する各務原市には工作機械、自動車、航空宇宙関連の大企業が名を連ねる。同工場は、そんな好立地に位置している。

ユニークな工場建屋

 地図を頼りに工場付近までたどり着くが、工場らしき建物は見つからない。それもそのはずで、本社機能も有した扶桑工場は元自動車販売会社の建物を借りて、改装したものなのだ(図1)。敷地内には従業員が通勤に使っている乗用車がたくさん並んでいるが、どうしても中古車展示場に見えてしまう。その工場の姿から、「社長は、ユニークかつ柔軟な考え方を持った方なのだろうな」と勝手に想像しながら、工場に足を踏み入れた。

 筆者を出迎えてくれたのは、社長の石田繁樹氏(図2)。開口一番、「なぜ、元自動車ディーラーの建物を工場にしようと思ったのですか」と聞くと、石田社長は以下の3点を挙げた。[1]自社製品を商談時に見て欲しかった、[2]快適な商談スペースを設けたかった、[3]自動車ディーラーの整備エリアは制御盤の組立工場として大きな改装をせずに利用できると判断した。小規模の制御盤メーカーでショールームを持っている会社はほとんどない。やはりユニークな発想を持っているようだ。

 石田氏と話していると、もう1人、今回の工場探訪の案内人が来てくれた。石田氏の右腕として日々奮闘している営業主任の小林路子氏だ(図3)。同氏は自らハンドルを握って広範囲の営業活動を担当するとともに、同社の強力な営業ツールである年6回発行の「制御盤新聞」の編集を担当しているという

 おいしいコーヒーを飲みながら談笑していると、ついつい自動車の商談と錯覚してしまいそうだが、しっかり工場を見学しよう。まずはショールーム兼事務棟を案内してもらった。

 
〔以下、日経ものづくり2013年10月号に掲載〕

図1●三笠製作所扶桑工場の外観
図1●三笠製作所扶桑工場の外観
自動車ディーラーの建物を活用している。
図2●三笠製作所社長の石田繁樹市氏
図2●三笠製作所社長の石田繁樹市氏
図3●営業主任の小林路子氏
図3●営業主任の小林路子氏

関 伸一(せき・しんいち)
関ものづくり研究所 代表
1981年芝浦工業大学工学部機械工学科卒。テイ・エス テックを経てローランド ディー.ジー.に入社。2000年に完成させた、ITを取り入れて効率化した1人完結セル生産である「デジタル屋台生産」が日本の製造業で注目される。2008年からはミスミグループの駿河精機本社工場長、生産改革室長として生産現場の改革に従事。28年間の製造業勤務を経て、3年前に「関ものづくり研究所」を設立。静岡県浜松市在住の55才。