「ホンダが日本で最も売っており、『シビック』に代わる世界に通用する最重要車種」。ホンダ代表取締役社長の伊東孝紳氏がこう力を込める新型「フィット」が2013年9月6日に発売された(図1)。

 3回目のフルモデルチェンジとなる今回のフィットの最大のウリは、ハイブリッド車(HEV)モデルである「フィットハイブリッド」で国内最高の低燃費を達成したこと。燃費(JC08モード)は36.4km/Lと、これまで最高だったトヨタ自動車のHEV「アクア」の35.4km/Lを1.0km/L超えた。同モードは国内基準であるため海外市場で販売されているクルマと厳密に比較することはできないが、ガソリンエンジンを駆動源に使うクルマ(量産車)としては、実質的に世界一の低燃費とみられる。

 低燃費を支える技術として、世間の耳目はHEVシステム(後述)に集まるが、ホンダの独創性はより車体の軽量化技術に表れている。設計を変えるだけではなく、生産技術まで刷新しているからだ。実際、新型フィットは2代目フィットよりも約45kgも軽くした*1。ここでは、軽量化効果が特に大きい技術を紹介しよう。

曲げ応力を避けて鋼板を薄く

 まず、新型プラットフォームに採用したフロアフレーム構造「フロアロードパス構造」である(図2)。フロアフレームを直線状にした独特の構造を採り入れた。

 
〔以下、日経ものづくり2013年10月号に掲載〕

図1 ●新型「フィットハイブリッド」( 手前)
図1 ●新型「フィットハイブリッド」(手前)
3代目「フィット」のHEVモデル。奥の青色のクルマは、従来型の2代目フィット。新型車の価格は、フィットハイブリッドが163万5000~193万円(税込み)。ガソリンエンジン車のフィットは126万5000~180万円(同)。
図2●フロアフレーム構造
図2●フロアフレーム構造
車体下から見た。(a)が従来のフロアフレーム構造。燃料タンクとの干渉を避けるため、曲がったフロントフレームを使っていた。曲げ応力がかかるため補強が必要だった。(b)が新型フィットのフロアフレーム構造。逆Y字形のサイドフレームとストレート形状のフロントフレームを組み合わせることで、曲げ応力がフロントフレームにかからないようにした。

*1 車両質量が最も軽いモデル同士の比較。なお、新型フィットでは、衝突安全性能と燃費の向上のために新たな部品を追加するなど質量の増分要因が約55kgあった。この増分要因を吸収して1台あたり約45kg軽くするために、ホンダの開発陣は約100kgの軽量化を実現する必要があった。