3Dデジタルツールで新たな事業や企画を提案するケイズデザインラボ(本社東京)。同社を率いる原雄司氏は、通信機メーカーの試作現場や金型用3D-CAD/CAMメーカーの開発現場などで3Dデータを活用したものづくりを実践してきた。その経験を生かして今、話題の3Dプリンタの普及に力を注ぐ。

写真:栗原克己

 今の3Dプリンタを取り巻くムーブメントは、2000年頃の1次ブーム、2008年頃の2次ブームに次ぐ3次ブームと捉えることができます。

 過去2回のブームでは3Dプリンタは本格普及しませんでした。ITバブル崩壊やリーマン・ショックといった経済要因もありますが、3Dデータの専門家である僕らの立場で言えば、別の要因があります。まず「3DプリンタはハイエンドのCADを操るようなプロじゃないと使えない」という印象を与えてしまったことが1つ。もう1つは、3Dプリンタを儲かる商材と考えた企業がよく知らないまま輸入販売してしまったことです。このためメンテナンスが十分にできないなど、ユーザーに対して3Dプリンタの印象を損ねたように思います。当社も、そんなユーザーの1社ですから。

 かくして、3度目のブームが訪れました。過去2回のブームと比較して今回の1番の進化は価格です。もちろん1次ブームのときと比べれば精度も材料のバリエーションも着実に進歩していますが、特に価格については数年前では予想できなかったほどの速さで安く、そして身近になりました。その結果、3Dプリンタの使い道はどんどん進化してきていると思います。パーソナルユースという意味だけではなく、自動車や家電といった大手メーカーの間でも新たな試みが始まっているようです。

オープンなイノベーションの場

 あまり詳しくは言えませんが、ある自動車メーカーは米3D Systems社製の10万円台の一番安い3Dプリンタ「Cube」を数台導入し、いろんな部門の人が来て使える工房を設けたようです。その自動車メーカーでは、びっくりするくらいのすごい勢いで3Dプリンタを仕事に使い始めていると聞いています。詳しい話?すみません、これ以上は秘密です。

 こうした先進ユーザーでは、インスピレーションを与える事例を同じ社内で共有しながらアイデアを出し合って3Dプリンタを積極的に使い始めています。つまり、3Dプリンタ活用の場がオープンなイノベーションの場となっているのです。導入を担当した方は、「最初はちょっと遊ぶ道具にするだろうと予想していたのに、いきなり仕事にバリバリ活用しているから驚いた」と言っていました。


〔以下、日経ものづくり2013年10月号に掲載〕
(聞き手は本誌編集長 荻原博之)

原 雄司(はら・ゆうじ)
ケイズデザインラボ 代表取締役
1966年生まれ。東京理科大学中退。大手通信機メーカー、金型用3D-CAD/CAMメーカーなどを経て、2006年ケイズデザインラボ設立。2012年「デジタルシボD3テクスチャー」プロセスを考案し、東京都ベンチャー技術大賞奨励賞を受賞。2012年3Dスタジオ「CUBE」をイグアス社と共同で発案。東京都渋谷区のものづくりカフェ「FabCafe」と連携して企業でも個人でも参加できる3Dデジタルものづくりの体験スペースを運営中。ものづくりをはじめ、デザイン、アート、医療、エンターテインメントなどさまざまな分野で3Dデジタルものづくりの活用を提案する。