シェールガスの主成分はメタンだが、他にも有用な副成分を含んでいる。それが樹脂や塗料など多様な有機材料の原料になる。代表がエタンだ。シェールガス由来のエタンは安価なので、米国の化学工業のコスト競争力は高まる。安い原料を生かし、米国では大規模な化学プラントの建設が相次ぐ。これらが稼働する2016年以降、樹脂の価格が大きく下がると期待されている。

 シェール革命は、樹脂などの有機材料の価格や調達に決定的な影響を与える。この点から、ブリヂストンが開発しているブタジエンの新製法が注目を集めている(図1)。

 ブタジエンはタイヤに使う合成ゴムの主要原料である。ブタジエンがないとタイヤが造れない。ところが、「シェールガスを原料にした化学プラントが本格稼働すると、ブタジエンがひっ迫する」(三菱ケミカルホールディングス)とみられているのだ。ブタジエンの新製法が注目されるのは「ブリヂストンが他社に先駆けていち早く手を打った、将来のブタジエン不足を見越した施策」と考えられているからである。

 その新製法は、サトウキビなどから造るバイオエタノールを原料とする。従来型の石油や天然ガスを原料とするこれまでの製法とは全く異なるので原料の多様化をもたらし、タイヤが造れないというリスクを大きく低減できる。

 ブリヂストンは、「材料開発では、原料の多様化、特に循環できる材料に置き換えていくことが基本方針であり、ブタジエンも例外ではない。中長期的な取り組みで、もともとはシェール革命を意識したものではないが、当然、従来製法のブタジエンがひっ迫した際の代替技術になり得る」(同社)と説明する。

 シェール革命の有機材料に対する影響はブタジエンだけにとどまるものではない。例えばクルマで多く使われているPP(ポリプロピレン)や、家電製品に使われているPS(ポリスチレン)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)の供給と価格にも大きな影響が出てくる。有機材料の調達環境に、まさに地殻変動が起きつつあるのだ。

 なぜシェール革命でタイヤの主要原料がひっ迫するのだろうか。前ページで紹介したように、米国で大規模な化学プラントが次々と建設される結果、樹脂などの有機材料の需給が緩んで価格が下がるのではなかったか─―。確かに基本的な流れは、その通りである。しかし、「化学品の原料に占めるシェールガスの比率が高まっていくと、生産する化学品のバランスが変わってしまう」(出光興産)。その結果、個別に見るとブタジエンのように不足するケースも出てくるのだ。では、どんな影響が考えられるのだろうか。具体的に見ていこう。