欧州ジャーナリストの視点
フリーランス・ジャーナリスト Ian Adcock氏
英国在住。『What Car』『Autocar』『Motor』などの自動車専門誌の編集者を経て、1980年からフリーに。自動車技術専門誌の『European Automotive Design』誌に寄稿するなど技術にも詳しい。

 イタリアFiat社のCEO(最高執行責任者)であるSergio Marchionne氏が4年前に、経営破たんした米Chrysler社との提携を発表したとき、多くの評論家は、業界の負け組同士が一緒になったとしても、将来の展望は開けないと評した。しかしそれから5年が経過したが、両社の提携は継続しており、しかも強くなっている。さらに皮肉なことに、現在はChrysler社がFiatグループをむしろ支えている状況だ。

 実際、米国人エンジニアやイタリア人エンジニアと話をしても、お互いに対する温かい称賛の言葉しか聞こえてこない。私が話を聞いた米国人エンジニアは、イタリア人エンジニアのオープンさと、クルマに対する強い熱意を特に評価していた。それは、ゲルマン人たちの冷たさを味わったあとでは一際だっただろう。

 ある1日をChrysler社の新型「Jeep Grand Cherokee」の試乗に費やして、それがいかに進化しているかをはっきりと感じた。イタリアVM Motri社製のディーゼルエンジンはわずかに荒さがあるが、インテリアのデザインは欧州的で、従来のような質感の低さは大きく改善されていた。同様に、新型「Chrysler300C」は、まだJaguar車やAudi車には及ばないものの、従来型よりもはるかに信頼できる製品になっている。

以下、『日経Automotive Technology』2013年11月号に掲載