富士重工業は、Liイオン2次電池の新しい正極材となるリン酸バナジウムリチウムを開発した。既存の三元系やNCA系の正極材に混ぜて使うことで電池の出力密度と信頼性、安全性を高められる。さらに実質的なエネルギ密度を向上できる。

 富士重工業は、日本化学工業と共同でLiイオン2次電池に使う新しい正極材を開発した(図1)。既存の正極材に混ぜて使うことで、これまでの電池製造プロセスを大きく変えることなく電池の出力密度を約2割高められる(図2)。加えて信頼性や安全性も向上する。

 開発したのはLi3V2(PO43(リン酸バナジウムリチウム、以下LVP)。車載用途のLiイオン2次電池の正極材には、Ni(ニッケル)とMn(マンガン)とCo(コバルト)を含む三元系やNiとCoにAl(アルミニウム)を少量加えるNCA系、Mn系、Fe(鉄)系などがある。開発したLVPは、こうした正極材に混ぜて使う。

 材料のコストは三元系やNCA系と比べて大きくは変わらない。バナジウムはレアメタルで超硬合金などに使われるが、材料の価格はそれほど高くない上に安定している。埋蔵量はCuより多く、チタン磁鉄鉱や非在来型石油に多く含まれる。供給不安に陥る可能性は小さいだろう。

 当社は2009年秋ごろからLVPに着目して研究を始め、LVPを使ったLiイオン2次電池を試作して性能を確かめた。現在は電池メーカーに技術ライセンスを供与することを検討している。

EV用電池をPHEVに転用

 電池の性能を示す重要な指標として、エネルギ密度と出力密度がある。エネルギ密度が高いほど電力容量を大きくしやすく、電気自動車(EV)として走れる航続距離を延ばせる。また、出力密度が高いほど、短い時間の放電量を大きくできるので車両の動力性能を上げられる。開発した正極材は電池の出力密度を高めるものだが、我々はハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の航続距離や動力性能を実質的に高めることにつながると考えている。

以下、『日経Automotive Technology』2013年11月号に掲載
図1 新しい正極材の粒子粉末
図1 新しい正極材の粒子粉末
リン酸バナジウムリチウム(Li3V2(PO43)。既存の正極材に混ぜることで、出力密度を約2割高められる。
図2 信頼性や安全性も向上
開発品と既存の正極材(NCA系)を混ぜたものと、既存品単独の各種性能を比べた。
[画像のクリックで拡大表示]