2013年5月号から、「250万件の特許で問題を解決する TRIZの日本式活用法」をお届けしています。旧ソビエト連邦で生まれた問題解決理論のTRIZは、1990年代に日本でブームになった後に衰退しましたが、その間、日本独自の活用法が生まれて使いやすくなりました。その中身を解説します。

「できるわけがない」の壁を壊せ

 第1回ではTRIZのような発想法が有効である理由、第2回ではTRIZの具体的な内容、第3、4回では「TRIZの日本式活用法」の手順を事例と共に取り上げた。これまでで本コラムの主題であるTRIZの日本式活用法の内容については一通り網羅したが、実際に企業の現場で活用する際には他にも心得ておくべきことがある。その代表例が「いかに現場に浸透させるか」だ。

 そこで今回は、TRIZの日本式活用法を現場に浸透させるためのいくつかのポイントを解説する。

実践が技術者を変える

 筆者はこれまで380社を超える企業にTRIZの日本式活用法の導入を手助けしてきたが、その活動を進める上で最初にぶち当たる壁が「現場の抵抗」である。導入しようとすると、現場の技術者からはとにかくたくさんの「できない理由」が挙がってくる。「日常業務で忙しいから手法など導入している暇がない」「カネがない」「そもそもそんな手法で成果が出るのか」などである。

 こんな時、筆者は他社の成功事例を提示するなどして手法の効果を説明する。そうすると今度は次のようなセリフが出てくる。「成功事例っていったって、それ、異業種でしょ」。手法を現場に受け入れてもらうためにはまず、こうした現場の姿勢を変える必要がある。

 といっても、無理に姿勢を変えてもらう必要はない。ただ、第3、4回で解説したTRIZの日本式活用法の手順を1度、体験してもらうだけでいい。実際、筆者は導入企業に対して7日間で全工程を体験できるプログラムを提供しているが、これを経た後の技術者の発言が大きく変わることにいつも驚かされる(図1)

 例えば以前、プログラム初日にこんな発言をしていた技術者がいた。「開発アイデアなんて今までに散々出してきたんだ。これ以上、出るわけがない」。ところが、その技術者が実際、TRIZの日本式活用法の前工程(自身が抱える開発課題の本質的な原因を突き止める工程)を経て、TRIZ工程の中でアイデア出しをしたところ、20~30くらいのアイデアがあっという間に出た。そこで筆者が「スゴイじゃないですか。こんなにたくさんのアイデアを出せたなんて」と褒めた。すると、本人もアイデアを出すことが楽しくなったようだ。その日、「10日後の研修日までに新たなアイデアを100個出してください」という宿題を出したら、喜んで引き受けてくれた。さらにその技術者は、こう言ってのけたのだ。「たったの100個でいいんですか?」。


〔以下、日経ものづくり2013年9月号に掲載〕

図1●効果を実感すれば技術者の姿勢が変わる
例えば以前、プログラム初日にこ図TRIZの日本式活用法は、TRIZ単体で活用するよりも成果を出しやすい。当初は「できない理由」を並べていた技術者も、効果を実感すると「やってみよう」という前向きな姿勢に変わる。
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前古護(ぜんこ・まもる)
アイデア 代表取締役社長
日本電装(現デンソー)入社後、パーティクル低減や新製品立ち上げなどフォトリソ工程を主とした製造技術分野に従事。1990年に同社を退社。コンサルティング会社を経た後、2003年にTRIZを中核にプロジェクト・コンサルティングによる実務テーマ解決を支援する株式会社アイデアを設立。クライアント企業は国内外を含め380社に上る。2005年から大阪産業大学非常勤講師。2013年1月から日本TRIZ協会の副理事長。

桑原正浩(くわはら・まさひろ)
アイデア TRIZプログラム担当ディレクター
桑原正浩(くわはら・まさひろ):カヤバ工業(現KYB)でサスペンションの開発設計、オムロンで電磁リレーの開発設計やプロジェクトマネジメントなどに従事後、技術問題解決コンサルタントとして独立。現在、アイデアのTRIZコンサルタントとして活躍している。