半導体分野で革新的な生産システムが提案されている。その名も「ミニマルファブ」。現行の「メガファブ」はウエハーを大口径化して大量のチップを安く提供してきたが、ミニマルファブでは0.5インチ(12.5mm)・ウエハーから1~100個のチップを生産するだけだ。従来とは逆張りの発想に、勝算はあるのか。

写真:谷山實

 半導体業界におけるコストダウンや生産性向上は主に、ウエハーの大口径化によって達成されてきました。今は直径300mmですが、2010年代後半には同450mmに移行しようとしています。しかし、ちょっと待ってください、これってあまりにも単純すぎやしませんか、と問いたいのです。

 本誌の読者の皆さんにはお馴染みのTPS(トヨタ生産方式)の視点で見れば、現行の半導体製造プロセスは、仕掛かりは多いし造りすぎだしと、ムダだらけ。つまり、半導体業界は同じものづくりをしながらも、先頭を行く自動車業界から何も学んでいません。「何も」というと語弊があるかもしれませんが、少なくとも自動車業界の方の目には「何も取り入れていない」と映ると思います。

 これに対し、私たちが提案するミニマルファブはTPSの哲学を初めて半導体分野に導入し、「余計に造り過ぎたらもったいない」「お客様が必要な時に必要な数だけ造る」というコンセプトで開発しました。

人間業ではない

 そのミニマルファブの詳細に入る前に、現行のメガファブの実態についてお話ししましょう。意外と知られていないことなのですが、メガファブではどれくらいの品種の半導体を扱っていると思いますか。我々が調べたところ、ざっと500~2500種類。背景には、携帯電話機やスマートフォンの登場でニーズがより多様化していることがあります。例えばメモリーでも、そのスペックは容量や処理速度、消費電力などでいろいろありますし、季節によっても変わります。

 つまり、メガファブはこれだけの品種を混流生産しているのです。進んでいる自動車業界でさえ数種類なのに、500~2500種類という数字、信じられますか。私はこれを知った時、正直、ちゃんとした混流生産ができていないと直感しました。つまり、混流生産をしているけれど生産性などの点で最適化・効率化されていないのでは、と感じたのです。だって、500~2500種類の混流生産なんて無理、人間業ではありません。本来は、これだけの種類のものが流れていること自体を問題にしなければならないのに、それができていない。これこそ、半導体業界が自動車業界を全く学んでいない証しなのです。


〔以下、日経ものづくり2013年9月号に掲載〕
(聞き手は本誌編集長 荻原博之)

原 史朗(はら・しろう)
産業技術総合研究所 ナノエレクトロニクス研究部門 ミニマルシステムグループ長
1989年早稲田大学理工学部助手、1990年早稲田大学工学博士。1990年理化学研究所基礎科学特別研究員を経て、1993年工業技術院(現産業技術総合研究所)電子技術総合研究所入所。1994年同主任研究官、2011年同ナノエレクトロニクス研究部門内にミニマルシステムグループを設置しグループ長に就任、現在に至る。