米国が世界の工場に

 シェール革命によるエネルギ価格の低下は米国の電力料金を引き下げる。さらに、シェールガスは樹脂や塗料など多様な有機材料の安価な原料になるので、有機材料の価格低下も期待されている。安いエネルギ/電力料金/材料がそろう米国は、生産拠点として魅力的な地域となる。米国は今後、世界の工場になる可能性さえ出てきた。

 さらに、シェール革命が自動車を大きく変えるという可能性も指摘されている。現時点では不確定要素が多いが、燃料に天然ガスを使ったクルマが普及するかもしれない。同じ熱量当たりで比較すると、現状の米国での天然ガスの価格は、原油に比べて1/4以下だからだ。

 シェールガスの大増産は米国で始まったが、世界でシェールガスの埋蔵量が最も多いのは中国。世界1位と2位の自動車市場で天然ガス車が普及する可能性があるのだ。さすがに気体燃料はクルマへの積載性やインフラ整備などの課題から普及が難しいとしても、シェールガスから造ったメチルアルコールや合成ガソリン、GTL(Gas to Liquids)技術で造った液体燃料などを使うという選択肢もある。そうなれば、自動車メーカーは燃料の多様化への対応を迫られる。

 自動車に関して、こうした劇的な変化の可能性が指摘されるが、現時点では明確な流れになっているわけではなく可能性にとどまっている。今後の展開を見通すことは難しい。

 この不透明性はシェール革命の本質的な特徴といえる。シェール革命は、まず米国のシェールガスの生産によって始まり、次にシェールオイルの増産へと進んだ。これがシェール革命の第1幕である。続く第2幕は、シェールガス/オイルの大規模な生産が米国だけではなく、今後、中国や欧州、カナダ、南米など世界に広がることだろう。

 安価なシェールガス/オイルの生産が世界規模で本格化すれば、天然ガスや原油は劇的に下がる。ところがシェールガス/オイルが眠るのは、深さ500~数千mの地下。地下の様子は簡単には分からない。いかに大量に天然ガスや原油があっても採掘コストが高ければ開発を進められない。米国のシェールガス/オイルは既存のガス田や油田の下層にあるので、地層状態がかなり分かっていて採掘コストも把握しやすかった。ところが米国以外の多くの地域は、地層の状態の詳しい調査は行われていない。そのため、いつ、どこで、どれくらいのシェールガス/オイルを採掘できるかは分からないのだ。

 シェール革命の今後の展開を把握するには、既に起きたことを整理し、今起きていることを地道に追っていくしかない。ここは急がば回れ、事実を1つひとつ積み上げていこう。

〔以下、日経ものづくり2013年9月号に掲載〕

注:mboe/dは、Million Barrels Of Oil Equivalent/Dayの略で1日当たりの石油換算100万バレルを指す 出所:国際エネルギー機関
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図1●米国、欧州、日本の天然ガス価格の推移
図1●米国、欧州、日本の天然ガス価格の推移
欧米に比べて日本の天然ガス価格は大幅に高い〔国際通貨基金(IMF)調べ〕。
図2●シェール革命が生む製造業のビジネスチャンス
図2●シェール革命が生む製造業のビジネスチャンス
シェール革命でさまざまな設備が造られる。日本の製造業にとって大きなビジネスチャンスとなる。