2000年代に入って新しい採掘技術の確立により、それまでコスト的に見合わなかったシェール層に含まれる天然ガスや原油を、低コストで取り出せるようになった。そして2000年代後半、シェールガス/オイルの生産量が米国で急増し、革命の幕が上がる。その結果、天然ガス価格が劇的に低下。電力料金の低下も見込める上、さまざまな有機材料の価格低下や自動車燃料の多様化が期待されている。シェール革命でこれから何が起こるのか――。革命の影響を今号から3回にわたって報告する。

 シェール革命により、ここ数年で米国では天然ガスの価格が劇的に下がった(図1)。しかし、シェール革命の影響はそれだけではない。製造業に対して、多様なニーズを生んでいるのだ。

 「米国ではシェールガス関連で、2020年までに4000億米ドル(40兆円、1米ドル=100円で換算、以下同)以上の生産拡大が見込まれている」と東レ経営研究所産業経済調査部シニアエコノミストの福田佳之氏は説明する。全米天然ガス協会によるとシェールガスの採掘やパイプラインの整備に2020年までに981米億ドル(9.8兆円)、全米化学工業会によると化学産業を中心とした製造業8業種で3400億米ドル(34兆円)の生産拡大が見込まれている。両者を合わせると4000億米ドルを上回る。

 こうした動きは日本の製造業にとっても大きなビジネスチャンスとなっており、既に多様な動きが始まっている(図2)。

日本の製造業が革命を支える

 JFEスチールは2012年10月、商社の兼松との共同出資でシェールガス/オイルを採掘する際に使うパイプを加工する米社を買収し、シェールガス/オイルの生産拡大に向けて布石を打った。さらにJFEスチールが50%出資する米社において、パイプライン向けの鋼管の生産能力を増強している。新日鉄住金は、LNG(液化天然ガス)タンク向けに新型の鋼板を開発し、日本のLNG受け入れ施設だけではなく、米国のLNG液化施設にも売り込む方針だ。神戸製鋼所の米子会社は、シェールガスを利用する、年産200万tの製鉄設備(直接還元鉄プラント)の建設を独Siemens社と共同で受注している。

 天然ガスの液化施設を受注したのがIHIの100%子会社IHI E&C International社である。受注額は約3000億円に上る。米大手ゼネコンとの共同受注なので約半分がIHI側の取り分という。IHI E&C International社は、この他にもシェールガスから合成ガソリンを製造するプラントの基本設計(FEED:Front End Engineering and Design)を米国の燃料会社から受注している。

 米国で建設ラッシュとなっている、シェールガスを原料とする化学コンビナートに対しては、日本の化学メーカーの参加が本格化しそうだ。出光興産と三井物産はシェールガスから造るエチレンを原料にしてαオレフィンを造るプラントの建設、三菱ケミカルホールディングスはアクリル樹脂の原料を製造するプラントの建設を検討している。

 米国では、天然ガスの値下がりによって、原子力発電や石炭火力発電から天然ガス火力発電への転換が進み始めている。このため、天然ガス発電に使う高効率ガスタービンやボイラ、発電機などの需要が急増する見込みだ。三菱重工業は、こうした需要に応えるため、米国でガスタービン工場を稼働させた。