第3部 ミニマルファブ【変種変量】

少量に特化した半導体工場
設備投資は1/1000の5億円に

 産業技術総合研究所(産総研)が中心となって開発を進めている「ミニマルファブ」は、半導体生産の「常識」を覆す新生産システムである。現在の最先端の半導体工場では、1つのチップの製品当たり数万個~10万個以上の大量生産が前提であるのに対し、ミニマルファブでは同1個~数万個の少量生産をむしろ得意とする。「ユーザー重視の変種変量が可能になる」(産総研ナノエレクトロニクス研究部門ミニマルシステムグループ長の原史朗氏)点で画期的だ。

1万個以下はあり得ない既存工場

 半導体業界はこれまで、ウエハーの大口径化と製造技術(デザインルール)の微細化の両輪で生産効率を高めてきた。現時点で最先端の半導体工場は、ウエハーの直径が12インチ(300mm)、製造技術の世代が19nm前後の工場である。

 ウエハーの大口径化と製造技術の微細化は、半導体チップの集積度向上や性能向上に大きな役割を果たしてきた。この結果、スマートフォンやタブレット端末のストレージ容量は年々増大し、コンピュータの処理能力は着実に向上している。

 ただし、その半面、半導体工場の構築に必要な費用が高騰している。現時点で、最先端工場の設備投資額は5000億円規模に膨れ上がってしまった。巨額の投資費用を回収するためには、パソコン用マイクロプロセサやスマートフォン向けフラッシュメモリーなど、莫大な出荷個数が見込める製品を大量に生産するしかない。

 こんな試算がある。12インチ・ウエハー工場で生産した場合、チップ価格を多くの電子機器にとって実用的な1000円~1万円に収めるためには、最低でも数万個~10万個のチップ生産個数が不可欠になる(図1)。仮にチップ生産個数が1万個に限られれば、チップ価格は数万~10万円となってしまい、大半の電子機器にとっては非現実な価格となる。このことが、「12 インチ・ウエハー工場では、1万個以下の生産個数の半導体製品はあり得ない」(産総研の原氏)とされる所以である。

設備投資額はわずか5億円

 これに対し、ミニマルファブが変種変量を得意とするのは、生産ラインの設備投資額を従来の1/1000の約5億円に削減できるからである(図2)。その最大の理由は、ウエハーの直径が0.5インチ(12.5mm)と、12インチ・ウエハーのわずか1/24しかないことによる。まさにウエハー・サイズは人間の人差し指程度の大きさしかないのだ。

 ウエハー・サイズが小さいので、製造装置そのものも小さくできる。約30cm幅で高さが約144cmの製造装置を約300台並べれば、半導体の生産が可能になる。この300台の製造装置は、20m角のスペースにすべて収まるという。加えて、現行の半導体工場と異なり、クリーンルームが不要になるため、「例えば家電メーカーの家電事業部の横に半導体の生産ラインを置くことも可能」(産総研の原氏)という。


〔以下、日経ものづくり2013年9月号に掲載〕

図1●ウエハー口径別の適した生産個数
現在の半導体生産で主流である12インチ(300mm)・ウエハーでは、実用的なチップ・コストを実現するためには数万個~10万個以上の生産個数が不可欠であり、1万個以下の生産ではビジネスとして成立しにくい。一方、0.5インチ・ウエハーを利用するミニマルファブでは、少量生産への対応が可能で、生産個数が1個~数万個の範囲で、既存のウエハーをコストで下回る。産業技術総合研究所の資料を基に本誌が作成。
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図2●設備投資額が1/1000に
ミニマルファブでは、従来の半導体工場に比べて、必要な設備投資額を1/1000にできる。産業技術総合研究所の資料を基に本誌が作成。
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