事例3:椿本チエイン 埼玉工場【コスト削減】

仕掛かり在庫一掃で省スペース化
マザー工場の生産性が3割向上

 新しい工法や設備を導入しなくても、既存のラインを見直すとともに新たな改革によってラインをコンパクト化しコスト競争力を高められる――。例えば、椿本チエイン埼玉工場の新ラインがそれだ。エンジンのタイミングチェーンや樹脂製ガイド・レバーなどを製造する同工場の新工場棟に構築された新ラインは、2013年4月に稼働を開始した。

 新工場棟は、同社の自動車部品事業のグローバル化をけん引するマザー工場。新ラインではJIT(Just In Time)生産方式の導入やチェーン製造時のプレス回転数の向上、金型の変更による段取り替え時間の短縮などで、仕掛かり在庫を一掃して生産効率を向上。例えばタイミングチェーン製造では、投入工数当たりの出来高数量が従来に比べて30%向上し、生産リードタイムも同程度短縮したという。その結果、ライン長は30%弱短くなった(図1)。

主戦場は海外に

 椿本チエインの自動車部品事業では、現在は国内生産の比率が高いものの(2012年度で生産比率は国内が55%、海外が45%)、2016年度までに海外生産比率を70%に高める方針である。顧客である自動車メーカーが海外生産に軸足を移しつつあるからだ。こうなると、海外の競合企業と戦わなくてはならない。新ラインを有す新工場は、「世界で最高の生産効率を持った工場を立ち上げ、それを海外展開することで、世界で勝てるようにする」(同社取締役専務執行役員の藤原透氏)ためのマザー工場なのだ(図2)。


〔以下、日経ものづくり2013年9月号に掲載〕

図1●エンジンのタイミングチェーンを造る生産ライン
図1●エンジンのタイミングチェーンを造る生産ライン
サブアッシのチェーン部品を組み立てるライン。JITを取り入れて仕掛かり在庫を削減し、ライン長を短縮して生産性を高めた。手前に並んでいる青い箱にサブアッシの部品が入っている。ラインを巡回する水すましによって定期的に供給される。
図2●2013年4月に稼働開始した椿本チエインの新工場棟
図2●2013年4月に稼働開始した椿本チエインの新工場棟

事例4: デンソー 西尾製作所【コスト削減・変種変量】

“1個流し”の鋳造ライン
設置面積1/5のダントツ工場

 デンソー西尾製作所内にあるアルミダイカスト部品の鋳造工場*1では今、鋳造ラインの刷新を進めている。新世代の鋳造ラインは、従来に比べて生産コスト33%減、設置面積80%減、エネルギ消費量50%減を達成した(図1)。加えて鋳造プロセスでありながら1個流しの考え方を取り入れ、タクトタイム約4秒を実現している。

 西尾製作所は、カーエアコンや燃料噴射装置などの製品を製造するデンソーの主力生産拠点。鋳造工場は、こうした製品向けに、バルブや筐体などのアルミダイカスト部品を製造している。

ダイカストマシンを出発点に

 デンソーでは自動車の車種増加と新興国市場の拡大に対応するため、主力製品であるカーエアコンやエンジン関連の各種ユニットの種類が急増している。しかも、自動車の車種ごとの売れ行きは大きく変動する。こうした状況に対応するため、変種変量生産を前提にしながら、コスト、品質、省エネルギで他を圧倒する「ダントツ工場」造りに、デンソーは全社を挙げて取り組んでいる。ところが、アルミダイカスト部品の鋳造工場は、根本的な問題を抱えていた。

 その問題とは、各加工機・設備の生産能力が大きく異なることだ。そのため、各工程間に大量の仕掛かり品が滞留して機動的な生産ができない。加工機・設備は基本的には外部から購入するため、生産能力をそろえることが難しいのである。

 これまでの鋳造ラインの基本的な流れは、[1]アルミニウム(Al)合金を溶解炉で溶かす、[2]多数のダイカストマシンで鋳造、[3]鋳造した部品を熱処理炉でバッチ処理、[4]切削加工、[5]洗浄、[6]耐久性を高めるためのアルマイト処理、[7]検査、の順に進む。中でも高さが8mもある溶解炉は規模が大きく、1時間当たり2tの溶湯を造る能力があった。これはダイカストマシン数十台分の原料を賄える量だ。


〔以下、日経ものづくり2013年9月号に掲載〕

図1●デンソーの鋳造部品の生産方法の新旧比較
従来は、各工程が別の建屋に分散していることも多く、工程ごとに分断されて大量の仕掛かり品を抱えていた。運搬のムダも多かった。コンパクトラインの実現により、コストは33%減、設備の設置面積は80%減、消費エネルギは50%減となった。(b)はコンパクトラインで生産している、可変バルブ機構において油の流れをコントロールするバルブ。
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*1 西尾製作所には全部で12の工場が集積されており、アルミダイカスト部品が造られている工場はデンソー社内では408工場と呼ばれている。本記事では便宜的に鋳造工場とする。