日経ものづくりが進める、日本の工場を応援する「シリーズ・強い工場」プロジェクト。2013年1月号の工場長特集、同5月号の個性的な建物・施設を備えた最先端工場特集に続き、第三弾となる本特集では、工場の本丸とも言える生産ラインの中に入った。取材を通して浮かび上がってきたのは、工程削減や工程短縮をはじめとする生産ラインのコンパクト化に大きく舵を切る国内メーカーの姿である。目標とする縮減率は従来より大幅に高く、中には投資費用を千分の一に抑えるといった画期的なアイデアも登場している。革命的な進化を目指す最新のコンパクトラインの動向を追った。(「強い工場」取材班)

第1部 新潮流

変種変量でも安く速く造る
量産効果を捨てた革新的発想

 「コンパクトライン」を稼働させる日本メーカーが今、増えている(図)。工程削減や工程集約、工程短縮といった施策を徹底的に進めた、従来にない規模の小さな生産ラインのことだ。先に紹介したホンダ以外にも、トヨタ自動車が月間生産量を半分に減らしても利益を出せる「小規模革新ライン」という名のコンパクトラインを開発し、国内外の工場への設置を積極的に進めている1、2)

 生産ラインを短く小さくしようとする動きはこれまでにもあった。だが、その多くは工程間の隙間を埋める「間締め」のような生産現場における改善活動が主体で、ライン長や設置面積の縮減率に限界があった。

飛躍的に高まる縮減率

 これに対し、現在のコンパクトラインは、縮減率が極めて高いことに特徴がある。ホンダのボディーの塗装ラインは従来と比べて40%も短い。トヨタ自動車のエンジンの生産ラインは設置面積を58%減らした。大豊工業のクランクシャフトなどに向けたエンジン軸受と、川崎重工業の2輪車(バイク)の両生産ラインの長さは半減しており、デンソーのアルミダイカスト部品の鋳造ラインは設置面積が80%も小さくなっている。

 電機業界でもコンパクトライン化の動きが急だ。例えば、TDKの電源の生産ラインでは、組み立て・検査ラインのスペースを40%縮小した。

 かつて2000年頃、日本の製造業には家電製品などの小・中型製品の組み立て工程を中心にセル生産ブームが起きた。コンベヤを撤去し、1~数人の作業員が屋台のような小さな持ち場で組み立て作業を行うことで、Q(品質)C(コスト)D(納期)に関して利点を得られる。手軽さもあって各社がこぞって導入し、今ではごく標準的な手法となっている。

 だが、全ての生産ラインや工程をセル生産に置き換えられるわけではない。人手ではなく、設備や機械、コンベヤを必要とする工程は少なくないからだ。そうした工程を対象に生まれたのが、コンパクトラインだ。大幅な縮減率を実現するコンパクトラインの登場は、生産ライン分野においてセル生産以来の「革命」といっても過言ではない。

小よく大を制す

 コンパクトラインは、製造業においてこれまでの“常識”であった「量産効果」、すなわち、大量に造れば安くなるという考えから脱した発想で造られている。つまり、コンパクトラインの定義は、「少量ずつ造っても、製造コストをできる限り低く抑えられる小規模な生産ライン」だ。大規模であることが前提だった半導体分野でも、投資費用を1/1000に抑えることができる画期的な小ささの生産ライン「ミニマルファブ」というアイデアが具現化に向けて動いている。

 こうした発想から生まれたコンパクトラインがもたらす利点は大きい。まず、[1]コスト削減(C)だ。生産ライン自体が小規模であることに加え、設置面積が小さいから工場の建屋も小さくできる。そのため、投資費用を抑えられる。加えて、工程が減り、エネルギ費用も安くなることで製造コストを削減できる。

 需要の増減への柔軟性も高い。需要が急減しても余剰設備になりにくく、固定費が低いから利益を出しやすい。逆に、需要が急増した場合に新設や増設も比較的楽に行える。これも最終的には、製品1個当たりのコスト削減に効いてくる。

 コンパクトラインがもたらすメリットはコスト削減だけにとどまらない。本誌が2012年10月号の特集「国内で造る」で指摘した、日本の工場が今後追求すべき2つの方向性、すなわち、圧倒的な付加価値(V)とスピード(S)を高めるのにもうってつけである。

〔以下、日経ものづくり2013年9月号に掲載〕

図●日本メーカーが導入を急ぐコンパクトライン
量産効果の追求をやめ、少量でも安く造るために開発された小規模な生産ライン。ライン長や設置面積の縮減率が高く、従来の1/2になるものも珍しくない。コスト削減をもたらす、変種変量に強い、スピードが速いという利点があり、日本をはじめとする先進国市場にも新興国市場にも適合し得る。写真は川崎重工業が明石工場に設置した2輪車を組み立てるコンパクトライン。
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1)木崎ほか「生産技術の底力」, 『日経ものづくり』, 2011年10月号, pp.50-53.

2)近岡ほか「国内で造る」,同上, 2012年10月号,pp.48-49.