ホンダ イノベーション魂!2では、「人と組織のイノベーション力をいかにして高めていくか」をテーマに、イノベーションの本質を考えていきます。日本初のエアバッグを16年かけて開発した筆者の経験に基づき、イノベーションに成功するためのアプローチや考え方を紹介します。
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 前回に引き続き、私たちが今どんな状況に置かれているかを明らかにしておこう。

 前回は、イノベーションに挑戦する上で、「What (何を造るか)」と「Why(どんな想いに基づいて造りたいのか)」をはっきりさせることが重要なのに、日本企業の取り組みでは、そこがおざなりになっていることを指摘した。今回は組織の老化を取り上げたいと思う。その老化の判定にぴったりなのが、今をときめくAKB48である。

 2013年6月8日、横浜の日産スタジアムに約7万人のファンが集まる中で「AKB48総選挙2013」が“開票”され、「さしこ」こと指原莉乃さんが第1位を獲得した。その瞬間、会場は大きなどよめきに包まれた。「意外」と受け止められたのかもしれない。指原さんは、声を詰まらせながら「今、唐突なのでなんと喜んでいいのか。私がセンターになったらAKBが壊れるとか言われているけど、絶対にAKB48は壊しません」と力を込めた

 AKB48は押しも押されもせぬトップアイドルグループである。2013年5月発売のシングル曲「さよならクロール」まで12作連続でミリオンセラー。テレビ番組や雑誌に加え、多数のCMにも出演しており、AKB48を見ないで過ごすことは今や不可能に近い。AKB48が何か大きな価値を実現していることは間違いない。

 そんなAKB48の結成は意外と古く、アテネ五輪翌年の2005年12月にさかのぼる。2007年12月にNHK紅白歌合戦に初出場を果たすものの、「アキバ枠」という企画ものの扱いだった。曲が売れ始めたのは結成後4年を経た2009年で、それ以降、快進撃が始まった。

 

 
〔以下、日経ものづくり2013年8月号に掲載〕

* ちなみに、指原さんのコメントには以下のような背景があるといわれている。総選挙で選ばれるセンターとはグループの中心で歌うメインボーカルの立ち位置のこと。指原さんは、もちろんボーカルだが、「バラエティー担当」というイメージが強かった。そんな指原さんがメインボーカルを取っても「絶対にAKB48は壊しません」と決意を語ったのである。

小林三郎(こばやし・さぶろう)
中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授
1945年東京都生まれ。1968年早稲田大学理工学部卒。1970年米University of California,Berkeley校工学部修士課程修了。1971年本田技術研究所に入社。16年間に及ぶ研究の成果として、1987年に日本初のエアバッグの開発・量産・市販に成功。2000年にはホンダの経営企画部長に就任。2005年12月に退職後、一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授を経て、2010年4月から現職。