前回に引き続き、私たちが今どんな状況に置かれているかを明らかにしておこう。
前回は、イノベーションに挑戦する上で、「What (何を造るか)」と「Why(どんな想いに基づいて造りたいのか)」をはっきりさせることが重要なのに、日本企業の取り組みでは、そこがおざなりになっていることを指摘した。今回は組織の老化を取り上げたいと思う。その老化の判定にぴったりなのが、今をときめくAKB48である。
2013年6月8日、横浜の日産スタジアムに約7万人のファンが集まる中で「AKB48総選挙2013」が“開票”され、「さしこ」こと指原莉乃さんが第1位を獲得した。その瞬間、会場は大きなどよめきに包まれた。「意外」と受け止められたのかもしれない。指原さんは、声を詰まらせながら「今、唐突なのでなんと喜んでいいのか。私がセンターになったらAKBが壊れるとか言われているけど、絶対にAKB48は壊しません」と力を込めた*。
AKB48は押しも押されもせぬトップアイドルグループである。2013年5月発売のシングル曲「さよならクロール」まで12作連続でミリオンセラー。テレビ番組や雑誌に加え、多数のCMにも出演しており、AKB48を見ないで過ごすことは今や不可能に近い。AKB48が何か大きな価値を実現していることは間違いない。
そんなAKB48の結成は意外と古く、アテネ五輪翌年の2005年12月にさかのぼる。2007年12月にNHK紅白歌合戦に初出場を果たすものの、「アキバ枠」という企画ものの扱いだった。曲が売れ始めたのは結成後4年を経た2009年で、それ以降、快進撃が始まった。
〔以下、日経ものづくり2013年8月号に掲載〕
* ちなみに、指原さんのコメントには以下のような背景があるといわれている。総選挙で選ばれるセンターとはグループの中心で歌うメインボーカルの立ち位置のこと。指原さんは、もちろんボーカルだが、「バラエティー担当」というイメージが強かった。そんな指原さんがメインボーカルを取っても「絶対にAKB48は壊しません」と決意を語ったのである。
中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授