攻略・工具編

効率追求で競争力向上に貢献
コーティングと形状が急速進化

 難加工材への挑戦は、ユーザーだけではなく工具メーカーでも進む。例えば超硬合金を「削れるか、削れないか」で言えば、従来もそれを削れる工具は存在した。しかし、工具が高価だったり加工時間がかかったりと、使う場面が限られていた。

 そこで工具メーカーが力を入れるのは、硬い材料をより効率的に切削加工できる工具の開発である。ここでは、超硬合金を短時間で切削加工できる低コストの工具を開発するユニオンツールと、金型の素材として広く使われる高硬度鋼の直彫り加工を可能とする工具の品ぞろえを拡充する日立ツール(本社東京)の取り組みについて解説する。

被膜の密着性を高める

 超硬合金を加工する場合、放電加工と研磨による仕上げを組み合わせるのが一般的だ。「ワークを削るには工具の方が硬い必要がある。つまり、超硬合金のワークを削るには、それ以上の硬さが必要」(ユニオンツール工具技術部エンドミル工具開発課課長の渡邉英人氏)となる。

 その点では、単結晶ダイヤモンドやcBN(立方晶窒化ホウ素)などを採用した工具でも超硬合金を加工できる。しかし、例えば単結晶ダイヤモンドの工具は1本10数万円と高価で、これで加工する場合の切り込み量も数μmと小さい。このため、主に仕上げ工程で使われているのが実情だ。そこで有望なのが、超硬合金を母材とした、いわゆる超硬工具にコーティングを施すことで超硬合金の加工を可能とする方法である。

 ユニオンツールは10年以上前から超硬工具に独自の熱CVD(化学気相成長)法でダイヤモンド・コーティングを施した工具を製品化している。「最初は、グラファイト電極の加工をターゲットにした」(同氏)。ビッカース硬さでHV9000前後の硬さを持ち、ガラス繊維強化樹脂(GFRP)や炭素繊維強化樹脂(CFRP)などの加工にも適用される。

 このダイヤモンド・コーティング技術を進化させ、超硬合金の加工用に開発したのが「UDCコート」だ。UDCコートは、従来の同社のダイヤモンド・コーティング「DIAコート」に比べて硬度と靱性が高い。「被膜の微細組織を制御することで、密着性、耐摩耗性が大幅に高まった」(同氏)という*1。例えば、膜厚はグラファイト用のDIAコートに比べて約半分。「膜厚を薄くした方が、内部応力による剥離を防げる」(同氏)からだ。


〔以下、日経ものづくり2013年8月号に掲載〕

*1 ユニオンツールが実施したブラスト試験では、ブラストメディアを吹き付け、被膜が剥離、摩滅する時間が2.5倍に延びた。